世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ後の東アジアと中国経済環境の行方
((一財)日中経済協会 元理事長)
2021.11.08
IMFは,先進国のコロナ感染ピークが過ぎた10月に2021年世界経済見通しを発表したが,米国の若干の下方修正と中国の僅かな下方修正だった。中国が21年の世界成長を牽引する予測だが,中国も必ずしも順調ではなく,多くの課題に直面している。
1.難問山積みの中国
(1)難問続発と規制強化で経済は下降している
中国の経済統計は,このところ毎月低下を記録している。コロナの散発的再発,広範な電力不足,サプライチェーン機能不全,半導体不足,カーボンピークアウト向け規制,輸出の先行き不透明などが次々と出現した。しかも電力不足で米国産飼料の輸入が停止するなど,世界に影響が広がった。
恒大集団など不動産業界の苦境は既に世界に影響を及ぼしているが,さらに不動産価格低落による長期の構造不況に陥った日本の実例を想起させる。
(2)統制が広がっている
巨大IT企業の統制に続いて宿題と塾の禁止,小学生からの政治教育,TV番組や俳優の規制,ネットゲーム規制などが短期間に続々と発表された。教育・医療・住宅の3大問題の対策は従来から進められ,芸術も「品位,格調,責任を重んじ,低俗・凡庸・媚俗を排除」と共産党大会で決定されている。しかし多数の唐突な規制発令は,従来の安定第一路線からの逸脱を感じさせる。
とくに習氏の「共同富裕」実現のための「第三次分配」の発言は,高所得者(フロー)に限定したものだが,同氏の毛沢東回帰的傾向もあって,文化大革命を想起させる。
(3)全ての先進国と対立している
バイデン大統領は10月の東アジア首脳会議で,中国による国際的秩序への脅威に懸念を表明し,日本もASEAN諸国も秩序尊重を求めた。同志国は連携してクアッド強化,AUKUS武力同盟結成,EUのインド太平洋協力戦略決定,米英日等6国艦艇の沖縄近海共同訓練などで,国際秩序を防衛する意思を明示してきた。これらは国際法上の秩序を侵害から守る防衛の動きであり,特定の国を包囲攻撃する動きはつゆほども感じられない。
同志国連携の根底には,香港「一国二制度」の侵害,新疆ウイグル族の人権弾圧,礼節なき戦狼外交など,以前の中国とは異質の行動への拒否が見える。
(4)台湾をめぐり軍事衝突の危険が高まっている
「当事者間の対話によって平和的に解決されることを期する」との米中上海共同声明にもかかわらず,中国は台湾の防空識別圏に多数の戦闘機を相次いで飛来させている。バイデン氏はこれに対して「台湾を守ると約束している」と表明,欧州議会も台湾との関係強化を議決し,緊張は日毎に高まっている。
2.今後の東アジア経済の行方
米中の対立は厳しさを増して貿易投資環境は悪化しているが,米中間の貿易は増加を続けている。東アジアではベトナム,インドネシアの経済も強靭に立ち直り,加えてRCEP発効は世界に貢献する。しかし地域の将来を考えるに当たっては,最大の経済規模を持つ中国の影響が大きいので,特に次の3点についての状況を考慮に入れなければならない。
(1)中国はコロナ後に所要の経済成長を実現できるか
広範な電力不足,半導体不足など多くの問題の解決が待たれるが,恒大集団問題を機に成長の原動力問題に注意が集まった。従来から投資主導型成長から新たな成長方式への転換が推進されてきたが,まさにいま転換期を迎えたとの認識が強まっている。雇用拡大,生活の質の向上,貿易拡大,米国を追い抜く「東昇西降」達成は,所要の経済成長実現に掛かっている。バイデン氏は「追い抜かせない」ための財政措置を講じたが,中国は成長のためにどのような施策を講じるだろうか。共同富裕に関連して一斉に報じられた「深い変革」は,如何なる施策を生むだろうか。
(2)習近平総書記は再任されるのか,去るのか
今年の六中全会は来年の党大会に向けての山場と言われ,多くの出来事はこれに関係している。習氏続投で戦狼外交継続か,新総書記就任の可能性があるのかについて世界の関心が高い。ルールを超えて再任されるための大義名分には様々の憶測があるが,特に台湾問題が懸念される。また次の最高指導部構成は中国の将来を示すものとして注目され,東アジアの平和と発展に資する開放的,国際協調的な方向が願われる。
(3)台湾問題で戦争が始まるのか
台湾統一は中国大衆が最も激しく反応する問題で指導者は僅かの柔軟性さえも表すことができないと言われるが,米国も同様だから極度の注意が必要だ。台湾海峡の平和を守る緊張のさなかに,台湾を独立国の如く扱おうとする欧州の国が出現し,米国も台湾の国連加盟を提唱した。中国の目でレッドラインを越せば,武力行使の懸念がある。戦火が台日韓を含むこの地域で広がれば,地域の将来を考えることはできなくなる。
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