世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
気候変動に世界はどう向きあうか
(富士インターナショナル・アカデミー 校長)
2021.09.27
2021年7月,カリフォルニア州デスバレーで,54.4度という驚異的な気温が記録された。また,北国のカナダのリットンで,6月,49.6度という信じられない高温が記録された。
そして,9月,ハリケーン「アイダ」が熱帯低気圧となり,ニューヨーク州,ニュージャージー州などアメリカ北東部は大洪水被害を受けた。一方,カリフォルニア州では,乾燥による森林火災で,2021年,年初から8月末までに約183万エーカーの森林が消失した。
大洪水と乾燥被害が一国の中で,同時並行的に起こることは,異常なことであるが,日本においても,線状降水帯による被害が,同じ地域で起こり,被害地域の住民はなすべき対策も打てず,怖れと嘆きに苦しんでいる。
このほか,5月19日,地球上の氷の90%を占める南極大陸の氷の一部が割れ,大西洋側のウェッデル海に世界最大の漂流の氷山が誕生した。一方,平均海抜約2メートルのマーシャル諸島共和国は,水没の危機に瀕している。これだけの異常現象をみても,気候変動が地球にとって,猶予の余地がない重大な状況を生み出していることが分かる。
世界の対応
過去100年間,最も大量のCO2を空中に放出してきたアメリカのトランプ政権は,2020年11月,パリ協定(2015年採択され,約200の国と地域が締結し,世界の温室効果ガスの排出量を21世紀後半に実質ゼロにすることを目標)から離脱したが,バイデン政権になって,2021年2月,「パリ協定」に復帰した。先頭を切って,気候変動問題で各国を誘導しなければならないアメリカが,この態度である。果たして,世界は,気候変動と向き合えるのか,どう向き合うか,これは,後世代のために,各国に託された重大な課題である。
世界の大人も,自分の子供,孫たちの将来を考えてみれば,気候変動の解決に向けた取り組みが喫緊の課題であることを身近な問題として実感ずるはずだ。
筆者は,福岡工業大学社会環境学部大学院で,「アジア環境協力特論」を受け持っていた際,2010年11月,韓国の環境産業技術研究院を訪問し,「グリーン成長委員会」委員の辛教授と環境協力について面談した。その際,辛教授から,「このように,共同作業の形で,協力関係を実施することによって,両国の過去の清算が可能となるのではないだろうか」との感想が出され,強烈な印象として,わたし自身の脳裏に残っている。
国家と国家との協力関係は,勝者と敗者の結果ではなく,Win―Winの関係でなければ連帯は不可能である。気候変動のような,人類全体の危機に関する問題は,互いが自分自身,自国の成果を認識できる協力関係が構築されなければならない。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は『第6次評価報告書』を2021年8月に発表したが,「日本語版暫定訳:2021年9月」によると,「人為起源の気候変動は,世界中の地域で,多くの気象及び気候の極端現象にすでに影響を及ぼしている。熱波,大雨,干ばつ,熱帯低気圧のような極端現象について観測された変化に関する証拠,及び,特にそれらの変化を人間による影響とする原因確定証拠は,AR5(第5次報告書:2013~14)以降,強化されている」として,警鐘を鳴らしている。
全世界にとって,気候変動で,勝者はいない。このままでは,すべての国家・人類は敗者となる。全世界の国家が連帯して,気候変動を食い止めるため,各国が連帯・共有できる施策の実施,革新的な技術開発の共同研究等即座に実施すべき課題が俎上に載せられている。
筆者は,2015年9月の国連サミットで採択され,国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のための機関を,国連から引き離して,拒否権の無い強力な特別機関として発足させ,世界の連帯を強化し,目標項目のひとつである気候変動の阻止を今こそ緊急に発進すべきものと考える。
- 筆 者 :高多理吉
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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