世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
エネルギー基本計画とIPCC第6次報告書の意味
(東京国際大学 教授)
2021.09.20
本年7月に,政府から第6次エネルギー基本計画の素案が公表された。2018年に作成された第5次基本計画の見直し版である。2016年のパリ協定の発効と欧州諸国等の大幅な削減目標の表明を受けて,大幅な温室効果ガスの排出削減を目指すエネルギー計画となった。日本の2030年の温室効果ガスの排出削減目標は,2013年度比で46%減と大幅な上積みとなっている。さらに,2050年の目標としては,昨年10月に,排出量を実質ゼロとする政府目標が表明されている。
この2030年の目標に関しては,性急すぎるのではないか,実施が可能か,日本経済の30年にわたる低成長をさらに悪化させ,国内産業に悪影響をもたらすのではないかと危惧される数値となっている。
一方,気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とした研究組織であるIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は,本年8月に第6次報告書(気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価:WG1)を公表している。この報告書は,「人間の影響が気候システムを温暖化させてきたのは,疑う余地がない」と述べており,以前のIPCC報告書の第3次で「可能性が高い」と述べ,第4次で「非常に高い」,第5次で「極めて高い」という段階を経て,第6次で「人為的に地球温暖化が生じていることは間違いない」と述べるに至っている。
注目されるのは,IPCCの第3次報告書(2001年)に掲示し,取り消された地球の温度が直近の数年で急上昇しているとの図(その形状から「ホッケースティック」の図:1000年から2000年を数年過ぎたところまで)と同じく,今回の第6次報告書では,地球の温度が急上昇しているとするホッケースティック図(紀元1年から2020年まで)が掲示された点である。
第3次報告書の図は,意図的にデータを取り出して温度が急上昇しているとしていることが後に判明して,IPCCはこの図は信頼性が低いと認めざるを得ず,図の削除に追い込まれた。しかも,IPCCに参加する研究者の間で取り交わされたメールが流出し,クライメート・ゲートと呼ばれる温暖化を目指す研究者への信頼が低下する事件が生じた。
現在では,人工衛星からのデータで,地球の温度を測定することがより簡易にできるようになっているが,IPCCは地球の温度を計測するにあたり,従来から地表で温度を測定することに執着してきた。しかも,数千カ所を超える測定地点を調べたNGOから,温度上昇が顕著な測定地点(コンクリ敷きの駐車場の真ん中)が含まれていることが指摘されて,それらを変更せざるを得なかった事例も生じてきた。
第6次報告書を発表し,このホッケースティックの図を掲示したことで,地球環境問題の研究者からは,現在,「ホッケースティックが完全復活した」と述べて快哉を叫ぶ声も聞こえてきている。
そのほか,環境問題で発言を続けてきたスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが,外部から指示を受けて,単にツイッター上に貼り付けをし,自分の意見として流していたことも明らかとなってしまっている。
このように見てくると,「脱炭素」を是が非でも強いる状況を,意図的に作り出したいとする政治的に動く人々が世界には存在していることがわかる。
世界の気候は自然変動により,大きく変化してきたことは間違いない。例えば,本年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されたが,北東北および北海道の遺跡から,紀元前13,000年から紀元前400年までの縄文時代に,日本人の祖先の縄文人が,土器を使用して定住し,採集・漁労・狩猟を行っていたことが確認されている。縄文時代中,紀元前4000年から3500年に「縄文海進」が生じて4メートル程度海面が上昇し,平野部が水没する事態も生じている。縄文人はこの事態にも「適応」してきた。北東北と北海道を見ただけでも,定住開始のごく初期から「墓地を作り,祭祀・儀礼の場である捨て場や盛土,環状列石などを構築し,祖先崇拝や自然崇拝とともに,豊穣への祈念や互いの絆の確認などが世代を越えて行われた」(世界遺産登録推進本部)ことは,精神文化・文明が存在していたことを示す。さらに,2万年前までの氷河期には,海水面が140メートルも下降しており,自然変動は極めて大きかった。
現在,地球環境問題が意図的に提示されるとともに,コロナ禍の下,グローバリズムの進展に待ったがかかっている。日本のエネルギー政策は,電力価格の上昇を抑え,エネルギー安全保障の観点から多様なエネルギー源を維持し,かつ,人権・覇権問題が深刻な中国に対しては,太陽光パネルの輸入を始めとして,依存度を減らす方向で対応する必要がある。再生可能エネルギーの導入の前に,まずは人権問題と安全保障問題を考え,各種エネルギーのバランスをとった利用を維持することが日本としては重要と言える。
- 筆 者 :武石礼司
- 地 域 :日本
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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