世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
強まるGAFA包囲網とその行方
(立命館大学 名誉教授)
2021.08.23
GAFAに対する包囲網が強まってきている。米司法省が昨年10月にグーグルを提訴したのに続き,12月にはFTC(連邦取引委員会)がフェイスブックを提訴した。またヨーロッパではGAFAにたいする罰金の科料が相次いでいる。そして今年に入り,さらにこの動きは加速化してきている。もっとも一括りにGAFAー海外ではマイクロソフトを加えてビッグテックーというが,市場シェアは一様に高いものの,その中身は異なっていて,検索エンジンのグーグル(シェア92%),スマホOSのアップル(14%),SNSのフェイスブック(68%),Eコマースのアマゾン(39%)などである。IT産業という共通性はあるが,それぞれの独立した分野において卓越した強みを持った企業として屹立している。
さて今回の一連の動きをみていると,「反トラスト法」に対するアプローチの違いがあるようにみえる。従来は新自由主義の影響もあって,消費者利益の観点から,価格と利便性と信頼性を基礎にして判断するという緩やかな規制路線が中心であった。しかしその結果,手に余るほどの巨大で傍若無人なIT産業が出現することを許してきたことを重くみて,市場構造そのものを問題視して,勝者が総取りする構造そのものにメスを入れようとしているようだ。GAFAに代表される巨大IT企業は自らを中立的なプラットフォーマーと位置づけ,無料で配信し,広告費で収入と利益をあげていると称してきた。その実,広告利益の再分配をえさに,自己のアプリ等の採用などと「抱き合わせ」を参加業者に強要し,「一人勝ち」を実現しようと画策してきた。そして将来有望な新興企業を次々に買収してその成長の芽を摘み,自己の支配力の強化に努めてきた。しかも事態はそこに止まらない。無料配信の対価として集まった厖大な個人情報を集積,分析,編集,再加工して,ターゲティング広告用情報として特定業者に販売して,そこからも利益を上げるという裏の顔も合わせ持っている。
したがって,GAFAはプラットフォーマー,広告会社,情報会社という多様な顔を持ち,それらを総合した巨大な「ニューモノポリー」として斯界に君臨することになる。そして純利益からみると,アップルとグーグルが突出していて,フェイスブックとアマゾンは差を付けられている。また広告収入が有力な資金源泉となっているが,その分布状況をみてみると,グーグルは世界のネット広告収入の31%,フェイスブックは20%を占めていて,アマゾンの4%を大きく引き離している。だから「ニューモノポリー」のパワーはネット広告費で測ることが見える世界での実力度の反映になるかもしれない。だがそれが全てではない。知財化されたグローバルスタンダードの貸与からの手数料収入ー筆者の用語法ではグッドウィルーがその裏面にはあるとみている。ここからの表面に見えない利益が最大の利益源泉であることが,ニューモノポリーたる所以ではないかと筆者は推察している。
さて,世界的に包囲されつつあるGAFAだが,アメリカでの提訴の行方は未だ不透明である。審決には数年を要することが自明で,その間に厖大な証拠書類の提出,参考人の意見陳述と質疑応答,法違反の是非の判断などの一連の過程がある。当然にそれらには莫大な費用もかかる。これらのことを勘案すると,一定の経過を経て,和解という妥協になることも大いにありうる。そうすると,その内容が緩く罰金で済ませるのか,それとも特定部門の分割にまで至るか,あるいはその両者の合わせ技になるかは不透明である。両陣営とも対策にはぬかりないような布陣が敷かれている。バイデン政権は司法省,FTC,大統領補佐官等の重要担当ポストに選りすぐりの反トラスト法強化派の人材を当て,議会とも連携を取りつつ,主導権を取ろうとしているし,GAFA側も立志伝中の人物である創業者達を第一線から退かせ,経営陣の刷新と交代を図って対応しようとしている。その帰趨を巡っては今後ロビー活動を含めた政治的な駆け引きが熾烈になっていくだろう。
筆者の一番の関心は,その帰趨がどちらに傾斜するかということよりも,事業分割が新たな競争を生み,そして再びさらに大きな巨大企業になって復活するという,かつてのAT&Tのような姿が再現しないかどうかを見極めることである。ネットワーク効果の裏側にある「一人勝ち」世界をどうしたら食い止め,切断できるかが今問われている。そしてそのための新たな理論的根拠をぜひとも見つけ出して欲しいと切望している。それが反トラスト法を新たな高みに押し上げる契機になると思えるからである。
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