世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2255
世界経済評論IMPACT No.2255

日中韓経済協力と「大図們イニシアチブ」

韓 葵花

(千葉大学 特別研究員)

2021.08.16

 中国商務部は2021年7月30日に記者会見を開き,「東北アジアと手を組み,共に新たな発展を模索する」を主題に,第13回中国―東北亜(東北アジア)博覧会を8月27日から31日まで長春で開催すると発表した。東北アジアは日本では北東アジアという表記が多いが,韓国においても中国と同様に「東北亜」と表記している。

 上述の記者会見で中国商務部長補佐の任鴻斌氏は,今回は2019年の第12回東北アジア博覧会以来の開催となり,中国と東北アジア諸国は経済・貿易で協力し,コロナ禍の悪影響を克服し,良好な発展の勢いを示していると評価,具体的に次のような点を述べた。

 まず第一に中国と東北アジア諸国は,発展戦略,連携を深め,共に「一帯一路」イニシアチブを構築し,ロシアの「ユーラシア経済連合」,韓国の「新南方」「新北方」政策,モンゴルの「草原の道」イニシアチブなど東北アジア諸国との発展戦略の連携が深まり続け,中国と北朝鮮の友好,協力関係は新たなレベルに上昇し続けている。中国と日本の第三国市場協力は実りある成果をあげ,域内の相互のコネクティビティのための協力は着実に進展し,各国間の経済貿易協力は拡大し続けている。

 第二に,貿易協力の急成長だ。中国は長年にわたり東北アジア5カ国(日本,韓国,北朝鮮,モンゴル,ロシア)の最大の貿易相手国である。2020年の中国と東北アジア5カ国との貿易額は約7,177億ドルであり,中国の貿易額の約6分の1を占めた。また,今年上半期,中国と東北アジア5カ国との貿易額は約4,179億ドルであり,前年比26%増加した。中ロ,中韓貿易額は今年も過去最高を記録すると予想される。

 第三に,投資協力の着実な改善がなされている。

 そして第四に,地域協力の深化だ。RCEPの正式署名により,域内貿易,投資の自由化,円滑化のレベルが更に向上した。また,中国・モンゴル・ロシア経済回廊の建設が加速され,「大図們イニシアチブ」協力がますます実用的になる(図們は中国の吉林省の市であり,図們江(韓国語では「豆満江」)を隔てて北朝鮮と接している)。中日韓は環黄海経済・技術交流の協力で目覚ましい成果を上げた。関係国はG20,SCO(上海協力機構)など多国間枠組みの下で積極的に交流し,開放型の世界経済を促進する上で重要な役割を果たした。

 任部長補佐は,「大図們イニシアチブ」が東北アジアの地域協力において果たす役割について,「大図們イニシアチブは1992年に設立され,この地域内の重要な貿易協定(「次区域的贸易安排」(サブ特恵貿易協定))であり,メンバー国には中国,モンゴル,ロシアと韓国を含むが,日本は主に地方政府の協力メカニズムに参加している。同イニシアチブはメンバー国の地域の発展戦略の連携強化に重点を置き,中国の「一帯一路」イニシアチブ,「東北振興戦略」,韓国の「新北方」,「新南方」及びロシアの「ユーラシア経済連合」,モンゴルの「草原の道」などのイニシアチブ間の連携の促進に力を入れ,地域の共同発展に相乗効果をもたらす」と述べた。

 「大図們イニシアチブ」のHPによると,同イニシアチブは政府間協力枠組みであるが,国家全体で参加するのではなく,国ごとに主要行政区を指定して参加することになっている。事務局は北京にある。中国からは東北4省区,モンゴルは東部の3省,韓国は3道3市,ロシアは沿海地方などが参加しており,日本は新潟県が参加している。北朝鮮は退出している。

 日中韓3カ国について,任部長補佐は「中日韓は隣国であり,強い経済補完性,緊密な産業チェーンとサプライチェーン,互いに重要な経済・貿易のパートナーである」としている。また「コロナパンデミックは中日韓および地域経済にさまざまな程度の影響を及ぼし,相互の産業チェーン,サプライチェーンの協力に不確実性をもたらしたが,関係者の共同の努力により,中日,中韓の経済・貿易協力はパンデミックの影響を克服し,逆に成長した」と言及している。

 2021年上半期の二国間貿易額はそれぞれ中日が23.7%増,中韓が28.5%増加し,双方向投資は活発に行われ,中日韓の経済・貿易協力の強靭さと旺盛な活力を示し,三カ国間の産業チェーンおよびサプライチェーン協力の安定性が上昇し続けていることも上記の言及に反映されている。パンデミックからの自然な反動効果ももちろん含まれるものの,中国が中日韓および域内での貿易を含む経済的連携の深化を期待していることが読み取れる。

 現在,RCEPの加盟国は承認手続きを進めている。今後RCEPの発効により域内の貿易・投資の自由化,円滑化のレベルが向上し,中日韓のアジア太平洋地域における産業チェーン,サプライチェーンの緊密な関係も一層深まると考えられるため,このことが三国間の経済社会面の協力に今後少しでも寄与することを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2255.html)

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