世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2244
世界経済評論IMPACT No.2244

国際破産の歴史:人類はどうして学ばないのだろうか

紀国正典

(高知大学 名誉教授)

2021.08.09

 コロナウイルスがわずか数カ月の間に世界中に広がってパンデミック(世界的感染)を引き起こしたように,国家破産も国境をこえて広がり,世界中に影響を及ぼしてきた。この政治経済現象をとらえるには,「国際破産」という新しい用語が必要になる。

 国家破産とは,「国家的な規模と範囲で影響を及ぼす破産」のことであり,発生要因でみるとそれには,財政破産,貨幣破産,金融破産,経済破産,気候変動破産,災害破産,戦争破産がある。それらの破産の多くは,国境をこえて他の国や複数国になんらかの作用と影響を及ぼす。ある種の国家破産が他の国にさまざまな種類の国家破産を引き起こす場合の,「国境をこえた規模と範囲で重大な影響をおよぼす破産」が,「国際破産」である。

 IMF(国際通貨基金)のエコノミストであったラインハート&ロゴフは,1300年から2008年までの800年間にわたり,66カ国もの国について調査した研究成果において,ある種の国家破産が他の種の国家破産を引き起こす連動作用に注目し,それを「国際複合破産(国際複合危機)」と定義した。彼らの歴史実証分析においても,対外財政破産は銀行破産が頻発しているときや,それによって国際的な資本の流れが停滞したときに多発していたり,国内財政破産がインフレ危機を引きおこしたり,銀行破産が税収の悪化から財政破産を誘発し,それがインフレ危機に波及したりするなどのことが,起こっていたのである。ラインハート&ロゴフ著『今回はちがう:金融愚行の800年』Princeton University Press, 2009(邦訳:村井章子訳『国家は破綻する―金融危機の800年』日経BP社,2011年)。

 ラインハート&ロゴフは,このような国際破産の複合度‘Composite Measure’を計測する方法を開発した。それは,それぞれの国家破産を1ポイントと数え,それを単純合計する「BCDI指数」である。著者たちがいうには,1947年の日本では,通貨暴落,インフレ危機,国内政府債務および対外政府債務の不履行の四つが発生していたので,指数は4となる。また1998年のロシア危機では,通貨暴落,銀行危機,インフレ危機,国内政府債務および対外政府債務の不履行の五つが発生していたので,指数は5となるという。

 これらの合計値の歴史的分析によって,1900年から2008年の歴史においては,第1次世界大戦,大恐慌,第2次世界大戦へと続く30年間に国際複合破産が突出して多いこと,第2次世界大戦後ではサブプライム危機(リーマンショック)における国際複合破産が戦前と同程度に多いこと,アジアでは,両大戦間期に国際複合破産が多いこと,中南米では,1980年から2002年にかけて国際複合破産が目立って多くなったこと,などを明らかにした。

 ラインハート&ロゴフはさらに,国際破産の規模と範囲を計測し,それを分類する方法も開発した。彼らは国際破産を,①地球規模破産,②多数国破産,③局地的破産の三つに分類する。地球規模破産とは,国際金融センターとして機能する国がシステム危機に落ち入っていること,欧州地域,アジア地域,中南米地域,アフリカ地域の二つ以上が危機にあること,これらの国際地域において三つ以上の国が危機になっていること,などの四つの基準を満たした場合の国際破産である。この分類方法によれば,地球規模破産は,「1825〜26年危機」,「1907年恐慌」,「1929〜38年大恐慌」,「2008年サブプライム危機(リーマンショック)」の四つとなる。「1980年代の途上国債務国危機」および「1997〜98年のアジア通貨危機」も多数国破産でしかない。彼らは,1929〜38年大恐慌を「第一次大収縮」,2008年のサブプライム危機(リーマンショック)を「第二次大収縮」と位置づける。

 国際破産は,その規模と範囲が大きければ大きいほど深刻度を増し,そこからの回復がより困難になる,とラインハート&ロゴフはくり返し指摘する。地球規模破産ともなれば,その及ぼす影響や深刻度はきわめて大きくなり,すべての国で輸出主導の成長は期待できないため,そこからの回復はさらに困難になるという。イギリスのEUからの離脱表明,排外主義勢力の台頭,自国利益第一主義のトランプ政権の登場,米中貿易紛争の激化などの政治・経済現象はこの現れとみることができる。

(詳しくは,紀国正典「国家破産・金融破産および国際破産の歴史」高知大学経済学会『高知論叢』第117号,2019年10月参照。この論文は,金融の公共性研究所サイト「国家破産とインフレーション」ページからダウンロードできる)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2244.html)

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