世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
デジタル化に向かうASEANの現状と課題
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2021.04.19
2020年12月23日に発表された日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部「2020年度 海外進出日系企業実態調査―新型コロナで景況感悪化,通商環境の変化による影響が広範囲に―(アジア・オセアニア編)」(2020年12月23日)によれば,新型コロナウイルスの感染拡大を受けた現地での事業戦略やビジネスモデルの見直しを行う企業について,全体の52.2%の企業が「見直しを行った,もしくは同予定がある」と回答した。「ニュージーランド」(70.3%)や「オーストラリア」(66.7%),「パキスタン」(65.1%),「インド」(64.6%),「バングラデシュ」(60.6%)では6割以上の企業が見直しを行った(あるいは予定している)。具体的な業種別にみると,「見直しを行った,もしくは同予定がある」と回答した企業は「旅行・娯楽業」(82.6%),「飲食業」(81.6%),「教育・医療」(80.6%)など,接触型ビジネスの内需型企業での回答率が8割を超えている。
ASEANでは調達先の切り替え,といったサプライチェーンに関わる変更もみられる。北東アジア,南西アジア,オセアニアでは「バーチャル展示会,オンライン商談会などの活用の推進」「デジタルマーケティング,AI利用などデジタル化の推進」などのデジタルシフトの動きもみられた。
ではASEAN諸国に求められているものとして何があげられるか。第一に,日本政府のデジタル経済・社会の方向性については,篠田(2020)によれば,
- ①Society 5.0を土台とした市民主体型のデジタル経済・社会モデルの提示
- ②アジアDXを通じた日本とアジアの企業の共創による社会課題解決型ビジネスの推進
- ③WTOやFTA等を通じて「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を推進
- ④デジタル経済やハイテク製造業に関連した分野での国際標準作り
を掲げている。
第二に,ASEANシングルウインドウ(ASW)については,蒲田(2020)によれば,電子フォームDにおいては,ラオスが2020年8月28日付商工省告示で正式導入(公式には20年1月時点で10カ国導入完了),その他の文書:ASEAN税関申告書類(ACDD),植物検疫書等の電子交換の時期は先延ばしになった。
第三に,税関手続きにおいては,認定輸出者(AEO)相互認証については2023年を目途に,ブルネイ,インドネシア,マレーシア,シンガポール,タイ,ベトナムの6カ国でAEO制度の相互認証を開始する。残る4カ国は2025年を目指す方向性で動いている。
ASWは,ここ10年ほどの間,ソフトインフラにおいて注目すべき事項である。
特にASWについては筆者はこの世界経済評論インパクト(川島(2019))でも過去にふれたように今後も注視している。
コロナ禍により,サプライチェーンの見直しやデジタル化が進んでいるが,今後のASEANについて今後を見通すうえで目が離せない。
[注]
- 川島哲(2019)「ASEANシングルウィンドウ(ASW)の現状と今後」2019.08.12,No.1445(2021年4月16日最終アクセス)
- 蒲田亮平(2020)「ASEAN経済共同体の現状およびコロナを受けた日ASEAN関係について」2020-9-14 ASEAN研究会配布資料から)
- 篠田邦彦(2020)「ポスト・パンデミックのインド太平洋の国際秩序の安定と国際協力の推進に向けて」ITI国際貿易投資研究会研究会資料,2020年12月2日
- 日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部「2020年度 海外進出日系企業実態調査―新型コロナで景況感悪化,通商環境の変化による影響が広範囲に―(アジア・オセアニア編)」(2020年12月23日)
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