世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
欧米,トランプ後の同盟再構築を急ぐ:対中政策など外交課題から連携強化始動
(駿河台大学 名誉教授)
2021.04.19
ジョー・バイデン大統領がトランプ前政権の「米国第一主義」と決別し,多国間主義,民主主義,人権尊重,法の支配などの普遍的な価値を欧州と共有し,中ソなどの強権主義に対抗する指導力を欧州側が強く期待する。欧州の政治指導者は,この4年間に大きく棄損した欧米関係の修復の好機と捉えて,バイデン氏との早期の協議開始を呼びかけた。
欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は欧州議会での演説で「米国が戻ってきた。われわれは米国の新しい夜明けの時を待ち望んでいた。最も古くからの最も信頼できるパートナーと新たなスタートに向けて,用意ができている」と米新政権誕生を歓迎した。シャルル・ミシェル欧州理事会(EU首脳会議)常任議長(EU大統領)も欧州議会で「過去4年で大きく傷ついた大西洋横断関係(Transatlantic relations)を再活性化させる好機となる」と述べた。
フォン・デア・ライエン氏は,「米国との新たなスタートのために,欧州委員会が昨年12月に新たな未来志向の『EU・米国アジェンダ(a new EU-US agenda for global change)』を採択した」と述べた。また,「気候変動に関して,米国がパリ協定へ復帰することは,欧米協力の再構築に向けてとても力強い第一歩となる」と強調した。また,同氏は欧米協力を深化すべき分野として,排出権取引やカーボン・プライシング(温暖化ガス排出量の価格付け)を望んでいることを表明した。
さらに,デジタル分野については,データ保護や表現の自由とその制約に関する大手インターネット企業への規制のあり方にも言及し,こうした課題を議論する第一歩として「貿易・テクノロジー合同評議会(joint Trade and Technology Council)」の設立構想を明らかにした。
ミシェル氏は欧米が取り組むべき5つの優先課題として,①多国間協力の推進,②新型コロナウイルス(Covid-19)との闘い,③気候変動問題への取り組み,④経済の再構築と公正な貿易の確保,デジタル化の促進,⑤平和と安全保障分野の協力を挙げた。
EU・米国アジェンダは,バイデン新政権の誕生が,中国などの強権主義に共同して対抗する自由主義の同盟関係にある欧米の協力強化に向けた「一世代に一度(once-in-a-generation)の好機である」と指摘している。また,協力分野については,外交や安全保障政策だけでなく,新型コロナウイルス対策,環境問題,技術・貿易など4つの分野での米国との協力関係の構築を目指している。
欧州側の対米関係修復への期待感は高いが,トランプ前政権との間で生じた亀裂は深い。協議が始まれば,当然交渉の俎上に載せられる懸案が山積している。主要課題として,対中政策,エアバス・ボーイング補助金紛争,GAFAなどIT(情報技術)企業へのデジタル課税,次世代通信規格5Gの中国通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)排除問題,鉄鋼・アルミの追加関税措置の撤廃,カーボンリケージ(温室効果ガス規制が緩い国への産業流出)防止のための炭素国境調整メカニズム導入など,長いリストができる。
EUは昨年12月末,EU議長国のアンゲラ・メルケル独首相が主導する形で中国との投資協定の締結で大枠合意したが,米国側が新政権と対中政策を協議するまでは締結合意を先送りするよう呼びかけていた案件だけに,関係修復機運に水を差す形となった。とはいえ,EUは3月22日,中国のウイグル人権侵害に対する制裁を決定,米国と協調する姿勢を示した。また,同月5日,欧州エアバスおよび米ボーイング社への補助金を巡る貿易紛争で相互に課している報復関税を4か月停止することで双方合意した。フォン・デア・ライエン氏は,声明で「良好な欧米関係の新たな始まりの象徴だ」と歓迎した。一時「休戦」して解決策を探り,関係修復を目指す。ここにも,欧米2社の市場支配を崩そうとする中国の存在が意識されているようだ。
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