世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2076
世界経済評論IMPACT No.2076

日本の成長戦略計画

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.03.15

過去の日本の成長戦略計画

 10月16日菅内閣は,これまでの「未来投資会議」を廃止して,「成長戦略会議」(議長:加藤勝信官房長官)をスタートした。まだ菅内閣の正式な「経済政策基本構想」は出されていないが,「成長戦略会議」に呼ばれたメンバーの顔ぶれを見ると,これまでの「グローバル化」,「構造改革」,「緊縮財政」を更に推し進めようとしているように見える。

 これまでの歴代の日本の首相はそれぞれの「経済成長計画」の旗を上げて活動してきた。池田勇人内閣の「国民所得倍増計画」(1960年から),佐藤栄作内閣の「経済社会発展計画」(1964年から),田中角栄内閣の「経済社会基本計画―活力ある福祉社会のためにー」(1973年から)などがあった。これらの内閣の1960年から1980年の時期の日本経済の実質経済成長率(年率)は8%から10%で,日本経済の奇跡的な高度成長をもたらし,日本を世界第二位の経済大国にした。

 しかしそれ以降の大平政権の「新経済社会7カ年計画」(1976年から),中曽根政権の「1980年代経済社会の展望と指針」(1983年から),竹下政権の「世界と共に生きる日本」(1988年から),宮沢政権の「生活大国5カ年計画」(1992年から),小泉政権の「新経済成長戦略:構造改革―官から民へ:改革なくして成長なし」(2006年から)からは,日本の経済成長率は3%から4%に下がり,安倍政権の「瑞穂の国の資本主義国にするーアベノミクス:3本の矢」(2013年から)で日本経済はゼロ成長になり,経済はデフレの淵のなかに沈んでしまった。GDPの伸びという点で,先進諸国の中で日本経済は一人負けになってしまった。

 アメリカのレーガン大統領は中曽根首相に「新自由主義によるグローバル化」を強く勧めた。中曽根首相は二つ返事でグローバル化の道を走り出した。このグローバル化政策を実際に展開したのは小泉政権で,公営機関を民営化し,日本産業は大手を振ってリストラをするようになり,どんどん海外に工場を移し,非正規社員制度を造り,移民を入れて労働者の賃金を切り下げた。海外に工場を移した企業は売り上げを拡大したが,グローバルな価格切り下げ競争に巻き込まれ利益は下落した。海外での生産は日本国のGDPの拡大には貢献しなく,日本の中小企業は縮小する国内市場でもがいている。これによりデフレはますます深刻になり,誰も前向きな投資ができなくなった。2010年には日本はGDPで中国に抜かれてしまった。

 1990年以降グローバル化の行き過ぎで日本経済は破壊されてしまったのである。具体的には小泉政権以降の「構造改革」は「リストラクチャ―」であり,「何でも破壊」であった。これがこれまでの日本経済の強みを破壊し,非正規社員制度で国民を分断してしまい,日本精神をも消してしまった。日本が資本と技術を入れて作り上げた中国の「世界の工場」に「モノづくり」を移し,日本での「モノづくり」を放棄してしまった。日本の半導体産業,家電産業も消えてしまったし,日本の農業も潰してしまった。あるのは電子部品や特殊な素材企業であるが,付加価値の高いシステム機器商品や「プラットフォーマー・ビジネス」は日本から消えてしまった。日本精神の宿った魅力ある「日本商品」も無くなり,強みを持っていた日本的経営も破壊されてしまった。日産自動車にゴーンを招き入れ日本的経営を破壊させた。小泉政権以降の日本経済は「破壊の連続」であった。

 中曽根首相にグローバル化を強要したレーガン大統領のアメリカ経済自身もグローバル化で産業の空洞化を起こし,経済が衰退してしまった。今や中国にその覇権の座を渡せと迫られている。トランプは「アンチ・グローバル化」に舵を切り,失われたアメリカの製造業を国内に呼び戻し,強いアメリカにしようと奮闘している。

 日本の金融関係の人は「日本産業のモノづくりは死んでしまい,貿易黒字はもはや日本では存在しなくなった。今まで貯まってきた外貨もどんどん氷解していくので,これまで蓄えた金を運用して少しでも稼がなければならない。日本は「黄昏の国」になってしまった」と言っている。日本の若者は,暗いデフレの中で育ってきており,「経済成長」を見たことが無い。若者にとっては「黄昏の国日本」がノーマルであろうが,若者はその日本を背負っていこうという気にはなれない。

待たれる菅内閣の基本構想

 9月16日に菅内閣が誕生した。仕事師の菅内閣は首相の座に着くや,直ちに政府の政策に取り組んだ。菅首相の指示として,「デジタル庁の創設」,「ハンコの廃止」,「地銀,中小企業の整理」,「携帯電話料金の再引き下げ」,「不妊治療への保険適用」,「最低賃金大幅引き上げ」などが示された。仕事師として菅首相は確実に実行できそうなプロジェクトを取り上げる。しかし何故それをやるのかの説明をしない。菅総理は国民との議論が苦手のようだ。

 菅首相が指示した「不妊治療への保険適用」は少子化,人口減少問題に対応するものであろうが,少子化の問題は,いろいろの統計数字にも表れているように,2000万人をこえる非正規社員が賃金が安くて殆ど結婚できないことによるところが大きい。これらの未婚の人は結婚したいという希望を持っているようだ。かつては一人ものは食っていけないが結婚して二人になると食っていけたが,今日では二人になっても食っていけない時代となった。賃金が安すぎるという日本の「ワーキングプアーの問題」を先ず解決しなければならない。

 「携帯電話料金の引き下げ」問題の本質は,公共財である電波の帯域が著しい低料金で放送局や携帯電話会社に割り当てられている点があり,そしてこれからの高速通信のインフラの5G/6G設備を拡充しなくてはならないことである。このインフラの拡充を誰がやるのかを含めて,適切な携帯電話料金を決めなければならない。つまり官がやるべき仕事と民がやることを分けて,適切なものにしなければならない。

 「日本中小企業の整理」はゴールドマン・サックス出身のデビッド・アトキンソンに言われたもののようである。日本の中小企業の数を半分に整理するというものである。日本経済を支えているのは中小企業であり,そこには中国が欲しがるような日本の技術力がまだ存在している。しかしこの25年日本はデフレが続き,経済の先が見えないために中小企業は生産性向上投資も,設備拡張投資も控えてきた。日本企業の売り上げは伸びないし,設備は減価するので,経営者としては投資をしないで内部留保で貯めるしかない。デフレを脱却し,景気が上向くと,中小企業は生産性向上投資をし,売上を拡大し,賃金を上げることができる。アトキンソンの中小企業の整理はグローバル化で,日本経済を破壊し,多くの失業者を出すことになる。この動きを察知してアメリカの投資ファンドは日本の中小企業を二束三文で買って,中国などに売り飛ばそうと計画している。先ずデフレから脱却することである。聡明な菅首相はそれが読めない筈がない。

 SBIホールディングスの北尾氏の「地銀連合構想」で菅総理は「地方銀行は多すぎるのではないかと思っている」と言ったようだ。地銀は貸出も低下し,低金利で地銀の利息収入は萎んでいる。いくら金融緩和してもデフレの中で企業は投資をしないので資金は必要とされない。日本銀行がゼロ金利,マイナス金利にしてしまったので,地銀は金利では儲からなくなった。地銀の統合の前に先ず日本経済を正常化しなければならない。日本経済を悪くしておいて,統制経済的に,それで行き詰った地銀を整理するのはいただけない。ハゲタカ・ファンドはかつて日本長期信用銀行を潰して安く買い,売り飛ばしたように,今度は日本の地銀を食い物にしようとしている。

 「デジタル庁創設」,「ハンコの廃止」も,何でもデジタル化にすることではない。先ず望ましい「日本の新しいIT社会」の姿を描き,それが日本経済の発展にどのように繋がり,国民の職場がどうなり,国民所得がどのように伸びるかという計画を描いたうえで,デジタル化を進めなければならない。デジタル技術は,兵器技術のように,使い方によっては人間の職場を奪い,デジタル難民を生み,人間社会を監視社会化などで錯乱し,民主主義を犯す危険性がある。こうした点を考えた上でデジタル社会の基本の全体像を描かないでデジタル化することは日本経済社会に大混乱を招く。

 そしてこの米中戦争の中で,日本はどのような立ち位置で進むべきか。コロナ大恐慌が襲ってくることに対してそれをどう切り抜けるのかなどの基本構想が無ければならない。菅首相が指示した細かいプロジェクトの前に,エネルギー政策,環境政策,国の安全保障などを含めて日本をどうするかという「基本構想」をまず描かなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2076.html)

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