世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
スペイン風邪に学んだインドの新型コロナ対策:今年度マイナス成長経済は来年度二桁成長見込
(東北文化学園大学 名誉教授)
2021.02.08
欧米諸国や日本で新型コロナウィルスの感染拡大が続く中で,感染者が米国に次ぐ世界第2位のインドでは昨年9月半ばのピーク以降大幅な減少傾向が続いている。冬の到来と年末年始の人の往来で感染者の増大が危惧されたものの減少傾向は続き,1月16日からは医療従事者等へのワクチン接種が始まり,高齢者に次いで一般国民への接種も予定される展開から,インドではパンデミック収束の見方も出ている。
まず,最近の減少傾向を見てみよう。今年1月25~31日1週間の感染者数は前週の6%減の8万9,931人で,ピーク時の昨年9月7~13日の64万5,014人の14%に過ぎない。同じ時期の死亡者数は975人と1,000人を切り,死亡者数ピーク時の昨年9月14~20日の8,175人から88%も減少した。今年1月の感染者数は47万1,282人で昨年12月のそれから43%減,これは昨年6月以来最小となった。また,同死亡者数5,453人は昨年12月死亡者数の53%減で,昨年5月以来最も少なかった。
こうした減少傾向の結果,直近の感染状況は2月3日現在累計感染者数が1,077万7,284人,同死者数は15万4,596人となった。前者は米国に次ぐ世界第2位の大きさであるが,後者は米国,ブラジル,メキシコに次ぐ世界第4位である。死者数が相対的に少なく順位も低いのは,インドの場合感染しても回復率が今や97%と高くなり(累計回復者数は1,046万2,631人でこれは米国に次ぐ世界第2位),これに先進国に比べ高齢者の割合がそれほど多くないこともあって死亡率(CFR)も1%台と低くなっているからである。
死亡率は世界的に見ても低く,昨年12月末時点で感染主要国別に見ると,インドは1.4%であったのに比し,米国1.7%,ロシア1.8%,ドイツ1.9%,フランス2.4%,ブラジル2.5%,スペイン2.6%,英国2.9%,イタリア3.5%であった。また,死亡者数は総数だけでなく人口の大きさを加味して10万人当たり死亡者数で見ると,インド10.8人,ロシア38.6人,ドイツ40.3人,ブラジル91.7人,フランス99.2人,米国104.5人,英国108.4人,スペイン108.7人,イタリア122.7人とインドが相対的に低い。
このような推移はインドの新型コロナウィルス感染対策がある程度有効であった証しであり,政府はその検証を踏まえ世界への貢献を視野に置いているとみられる。政府は1月末に来年度予算案を国会に提出,経済白書(エコノミック・サーベイ2020~21)も公表し,そのボリューム1では新型コロナウィルス対策等主要な政策の検証を行っている。新型コロナ対策では,100年以上前に感染し被害が大きかったスペイン風邪等多くの感染症の経験が活かされ,特に早期に予行演習を交え講じた世界最大といわれたロックダウン(全土封鎖)政策は370万人の感染者や10万人近い死亡者を抑制したと試算している。そして,インドのコロナ戦略は世界的にレコメンドされようとしてその基本戦略が分析され,目下開催中の連邦国会でも議論されている。
基本戦略は早期のtesting(検査),contact tracing(接触追跡),isolation(隔離),quarantine-containment(治療抑制)政策が中心で,これに国民は社会的距離の順守やマスク,フェイス・カバーの着用等が求められる。具体的施策では世界最大といわれた厳しいロックダウンの他に,政府はガイドラインや基準を適宜発信し,人の移動や活動を統制し,マイナンバー制度Aadhaarによる感染者管理や接触確認アプリAarogya Setuが感染者の検査や追跡で効力を持ったようである。また早期発見を図るべく,検査機関の増設が図られ,昨年3月時には1日あたり100件程度の検査数が年末には100万件以上に拡充され,今年2月1日段階では検査累計数は2億件に迫り世界最多となっている。マスクや検査機材の国産も進み,医療用酸素の不足には増産が図られた。さらに2社以外にも国産ワクチンの開発が進んでいると伝えられ,今後近隣諸国への無償提供や海外輸出だけでなくWHOの国際調達ファシリテイCOVAXへの協力も行われる。
一方,大規模で厳しい対策は経済活動を鈍らせ,今2020~21年度(4~3月)は近年にはないマイナス5.5%に落ち込むと推定されるが,来2021~22年度にはコロナ騒動が収束し経済正常化への期待から11%増の二桁V字型成長を予測している。また新農業法改革等課題が多いものの,GDP5兆ドルを達成し米国,中国に次ぐ世界第3位の大国入りの目標も話題になり始めている。中国とは,昨年5月以来の国境紛争が続き近隣諸国やインド洋圏への一帯一路政策の展開や覇権拡大に対抗すべく,米国の新政権と「FOIP(自由で開かれたインド太平洋)」構想を共有し日本と豪州を加えたQUAD協力の推進が待たれている。いずれも大きな関心事であるが,当面はインドの新型コロナウィルス感染が期待通り収束して行くのかどうか,感染報告のない地域が増える一方で変異ウィルスの確認が相次いで懸念されているので,今後の展開に注目したい。
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