世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2029
世界経済評論IMPACT No.2029

EU・中国,投資協定に大枠合意:中国は外交,EUは実利優先

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2021.01.25

 年末ぎりぎりの12月30日,EU(欧州連合)と中国は2014年に交渉が始まった包括的投資協定を締結することで大枠合意した。

 これより先の9月のEU・中国首脳会談で,習近平国家主席は「コロナ時代の中国と欧州の関係をより高い水準にしていきたい」として,「平和共存・開放的協力・多国間主義・対話と協議の4つの堅持を行う必要がある」と述べた。これに対して,シャルル・ミシェル欧州理事会議長(EU大統領)は「われわれはもっと公平で,よりバランスの取れた関係を望んでいる。それは互恵関係と公平な競争関係を意味する」と述べた。同氏の主張は,中国の「一帯一路」攻勢や経済・政治的な影響力の拡大で翻弄されるEUが,2019年3月の対中戦略の見直しの中で,経済・貿易・技術開発などの分野で「中国は体制的競争相手」と再定義し,互恵性と公平性(level playing field)を強く求めていたものである。

 ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も,昨年中の妥結を目指していた投資協定交渉について「中国のさらなる熱意が必要だ」と不満を示した。また,中国政府による補助金や国有企業の優遇,中国進出した欧州企業などに対する技術移転の強制など,EUが改善を求めている問題に進展が見られないことへの苛立ちを示した。

 在中国EU商工会議所(EUCCC,会員企業数1,600社)は,中国ビジネス環境改善を一貫して求めている。特に,立法過程の透明性を高めることや,制度変更の場合の準備・猶予期間の確保など,ビジネス環境にかかわる予見可能性を重視する考えを示した。

 また,欧州産業連盟(Business Europe)は昨年1月,中国に対して当国の構造問題や市場歪曲的慣行の改善求める意見書(The EU and China: Addressing the Systemic Challenge)の中で,中国の国家主導経済は中国内外での市場歪曲を引き起こしていると指摘,欧州産業界として,①中国とEU間の公平な競争条件の確保,②中国政府主導の市場歪曲の影響緩和,③EU自身の競争力強化,④第三国市場における公正な競争と協力の担保をEUに要望するとともに,中国との経済関係を再考すべきだとしていた。

 習主席が主導する「一帯一路」攻勢でEUは結束を乱された。さらに,新型コロナウイルス感染が拡大する中,中国の「戦狼外交」は欧州側を大いに困惑させ,警戒心を掻き立てた。強権主義的な一党支配体制への自信を深める中国は,政治,外交,経済,軍事面で示した強硬路線では一歩も譲らない構えだ。

 年末ぎりぎりのタイミングで交渉が大枠合意に達した背景には,EU・中国双方の思惑が一致したからである。米国と対立してきた中国側は,バイデン米新政権発足を前にEUとの関係を強化しておきたいということで妥結を急いだ。他方,EU側としても,新型コロナウイルスの打撃を受けた経済を再生するため,急回復に転じた中国市場への参入拡大が急務であった。さらに,中国との協定締結に強い意欲をみせてきたアンゲラ・メルケル独首相がEU議長国として早期妥協に動いたことも大きい。

 とはいえ,EU側の協定批准手続きには,なお紆余曲折が予想される。批准には欧州議会の同意が必要だが,議会では香港の民主派弾圧やウイグル族の強制労働を巡って中国政府への批判が強く,「人権についての中国の署名は紙切れにすぎない」とみる議会承認は難航しそうである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2029.html)

関連記事

田中友義

最新のコラム