世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2026
世界経済評論IMPACT No.2026

ベトナムの米輸入をどう捉えるか

高橋 塁

(東海大学政治経済学部 准教授)

2021.01.25

ベトナムの米輸入と国際米市場

 2021年が明けて間もない1月4日,世界屈指の米輸出国であるベトナムが同じく世界トップの米輸出国であるインドから米を7万トン輸入するという報道があった(注1)。もともとベトナムは仏領期の頃から屈指の米輸出地域であり,農業生産における潜在力(土地や人的資本,気候・地理的条件等)は高かったが,1988年に集団農業から脱却し農家が基本的な農業経営単位となることで生産インセンティブが向上し,急速にその潜在力は解放されることとなった。米については1989年に早くも輸出を達成できるほどとなり,それ以降,主要米輸出国の地位を保っている。

 米は世界商品(commodity)としては他の穀物に比べ生産地,消費地がやや限定的で異質な特徴を持っており,国際穀物市場にもそれが反映しているように見える。一般に発展途上国には農業生産に長け,農業が主産業であるから食糧を含む一次産品の輸出国であるというイメージもあるが,これは第二次世界大戦前の過去であればある程度該当するかもしれないが今日では当てはまらない。小麦,トウモロコシといった主要穀物の上位輸出国はアメリカやカナダ,オーストラリアといった先進国が市場を席捲していて,アフリカ等,発展途上国の多くは穀物の輸入国であるのが現状だからである(FAOSTAT参照)。しかし米についてはインド,タイ,ベトナムなどの発展途上国が主要生産輸出国として重要なプレーヤーとなり競合してきた(ミャンマーは玄米輸出でトップ)。今日でも米は重要なベトナムの輸出産品であり,国際米市場で競合状態にあるインドから米を購入するという状況は異例である。

ベトナムにおける米の需要と生産

 上述の報道ではベトナムがなぜインドから米を輸入することになったか詳述されていない。アジアからの米供給が厳しく,アジアの米需要が逼迫しているという記述のみである。他方,今回ベトナムで輸入されるインド米の多くは家畜の飼料用,醸造用等に用いられる破砕米とある。ベトナム人と米は密接に結びついており,日本の3倍弱の米消費量がベトナムにはある(OECF-FAO Agricultural Outlook 2020-2029, p.132)。米はベトナムの生活に根差しており,国内の生産・需要動向にも政府は神経をとがらせている。以下米の需要面,生産面からベトナムの米輸入の背景を考えていきたい。

1)需要面

 ベトナムはCOVID-19のパンデミック初期の2020年3月24日に米の輸出を一時停止した(注2)。これは新型コロナウイルス禍により国際米市場の動向が不安定であり,メコンデルタにおける干ばつと塩害(後述)等で米に対する食糧安全保障の要求が高まったことが背景にある。しかし今回のインドから輸入される米は,畜産用の飼料として用いられることが言及されている(注3)。ベトナムでは1人当たり月次食肉消費量が2002年の1.3kgから2018年の2.2kgへと1.7倍も増加しており(General Statistics Office(GSO)による),こうした畜産需要の増加は飼料需要の増加に結び付く。今回の米輸入にもこうした事情が関係していると考えられる。

2)生産面

 2020年のベトナムにおける米生産量は前年に比べ80万6,600トンの減少と推定されており(GSOによる),今回の米輸入に影響を与えたと考えられる。生産減の最大の理由としては2019年から続いたメコンデルタの干ばつ,塩害があげられるだろう。ベトナムの米生産はアジアでも屈指の高い生産性を誇るが,特にメコンデルタは米の三期作も可能なベトナムの米輸出を支える穀倉地帯である。しかし近年ベトナムの異常気象は苛烈さを増しており(昨年10月の中部の台風被害は記憶に新しい),メコンデルタでも近年干ばつが頻発し,低海抜の農地では塩害も深刻となっている。このように,ベトナムの米生産は量的な面でリスクが高まっているが,一方で米の品質改良,VietGAP(Vietnam Good Agricultural Practice)基準に基づく有機農法導入等の高付加価値作物栽培の奨励など農業の質的な側面の改善も進められている。ベトナム農業は生産リスクへの対応の中で,量から質に重きを置いて高付加価値化を目指す方向へと模索を続けている。

 ベトナムはCOVID-19の封じ込めに成功した国として世界の耳目を集め,昨年12月には米国に為替操作国と認定されるほど世界経済での存在感を増している。ベトナム経済を伝統的に支えてきた米穀産業がどのように変化するか引き続き注視していきたい。

[注]
  • (1)"EXCLUSIVE-Vietnam buys Indian rice for first time in decades - industry officials."https://jp.reuters.com/article/india-vietnam-rice-exports-idUSL4N2JF214(2021年1月20日閲覧)
  • (2)"Tạm dừng ký hợp đồng xuất khẩu gạo mới."https://www.customs.gov.vn/Lists/TinHoatDong/ViewDetails.aspx?ID=29441(2021年1月20日閲覧)
  • (3)ベトナム側も食糧不足が原因ではないとしている。例えば以下の記事を参照。"Việt Nam nhập khẩu 70.000 tấn gạo từ Ấn Độ: Chuyện bình thường trong xu thế hội nhập."https://laodong.vn/kinh-te/viet-nam-nhap-khau-70000-tan-gao-tu-an-do-chuyen-binh-thuong-trong-xu-the-hoi-nhap-868889.ldo
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2026.html)

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