世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
私見:米国の2020年大統領選挙
(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)
2020.11.30
今回は,皆さまのご批判を覚悟で,一般とは,少し違う視点からの米国大統領選挙の評価をしてみたい。
筆者は,米国と言う国は,「公正なるルールと制度に基づき,公正なるジャッジメントの下,生活していくことが保証されており,また,国民に対して機会均等にチャンスが与えられることも保証されている国家である」と考えている。
そして,こうした考え方の下,「アンフェア」を極端に嫌い,アンフェアを正そうとする国民たちによって構成されている国家であるとも認識している。
こうした点からすると,選挙結果に異議を唱えるトランプ大統領は,「選挙そのものがアンフェアである」と唱え,訴訟までしようとしている訳であるから,まずは,トランプ大統領が正式に訴訟に出てくるのか否かを待つべきであると考えている国民もたくさんいると聞いており,こうした点からも,「アメリカ合衆国の正式な決定」を外国人である我々は待つべきであり,まして,「トランプ大統領は往生際が悪い」などと言った評価をしつつ,投票権のない外国人が騒いではいけないとも考えている。
さて,今回の米国の大統領選挙,今年2月の米国の失業率は3.5%と1969年以来の良い数字で完全雇用状態を創出,また,株価指数を中心とした金融指標も堅調に推移していたことから,既得権益層がトランプ大統領を批判する水準にもなかったこともあり,好調な経済状況を背景にトランプ大統領再選はほぼ間違いないと,トランプ大統領自身も考えていたであろうし,筆者もそのように見ていた。
ところが,中国本土発の新型コロナウイルス感染拡大の中,状況が大きく変化していったのは,ご高承の通りである(こうしたことから,トランプ大統領が盛んに中国本土の責任を問う気持ちも筆者はよく分かる)。
そこで,更に今回の米国大統領選挙を眺めていきたい。
筆者は,そもそも,米国は貧富の格差を主たる背景として,4年前の前回に続いて,米国社会そのものが,二極化していた中で実施された選挙であると考えている。
そして「共和党・トランプ大統領は,大航海時代以降の既得権益層の既得権を壊して,新しい秩序を目指した大統領である」と筆者は見ており,一方,「民主党・バイデン候補は,トランプ政権によって,変えられつつあったこれまでの秩序に世界を戻し(Back to Normal秩序を元に戻そう),大航海時代以降の既得権益層の既得権を再び守ろうとしている大統領候補である」と考えている。
そして,貧富の格差を背景とした現行の社会に対する不満を持つ勢力たちは,閉塞感のある現行の世界を変えてくれるとの期待を持たせるトランプ大統領を支持,今回もそのトランプ大統領を支持した。
こうした勢力はまた,バイデン候補では,二極化された現行の米国社会に融和を齎すどころか,むしろ,「二極化を固定化させていく可能性がある」とも見ており,従って,バイデン候補が,「これからはブルーステートもレッドステートもなく,米国が一枚岩になって頑張ろう!」と呼びかけていることを,冷めた目で見ているとも聞いている。
そして,トランプ大統領の差別発言問題によって,反トランプ大統領の姿勢を示すであろうと見られていた黒人系,ヒスパニック系,アジア系は,今回,4年前の前回よりも多くの票をトランプ大統領に集めていった。
トランプ大統領はまた,「黒人に対する雇用拡大策」を提案するなど,きめ細かい政策姿勢を示しており,こうしたことも,黒人票を集める背景となったものと思われる。
一方,既得権益層と既得権益層に近い富裕層の白人層は,トランプ大統領を嫌い,選挙資金を,「He is not Trump」,即ち,消去法でバイデン候補に集めていった,こうしたことから,選挙戦終盤には,トランプ大統領陣営の資金不足が顕在化し,選挙戦苦戦の一つの背景となったと筆者は見ている。
しかし,トランプ大統領の苦戦の大きな背景としては,「新型コロナウイルス対策の失敗などにより,女性票をトランプ大統領が失ったことにある」と筆者は見ている。実際に女性はバイデン56対トランプ43となったと報告されており,この差が大きかったと思われる。
最後に,今後,バイデン政権が成立するであろうことを前提として,今後の世界を予想しておきたい。
まず,今後も上院を共和党が抑えるとすると,内政では民主党らしい政策は実施できず,右にも左にも触れていくことは叶わないと思われる。
一方,外交のあり方は相当変わるものと予想され,例えば,パリ協定・WHOはすぐ復帰,また,中国本土が4年前の世界秩序に戻ることに基本的に協力する姿勢を示せば,中国本土に対しては融和的な姿勢を示してくる可能性はあろう。
また,日米関係も,トランプ大統領のような意外性は減るであろうと予想されることから,日本にとっては,日米関係だけ見れば,安定性が相対的には高まるのではないかと予想される。
更に,大航海時代以降からの既得権益層が多い欧州との関係も基本的には改善していくものと思われ,伝統的な米欧関係が戻ることによって安定的に推移してくるのではないだろうか。
一方で,こうした米欧接近により,例えば,反ロシア政府のリーダーであるナリヌワイ氏暗殺未遂事件を背景とした米欧のロシア制裁が強化される可能性があるなど,ロシアはバイデン政権発足に対しては警戒を示すものと思われる。
また,トランプ大統領と接近して中東地域に於ける影響力を強めてきていたイスラエルも後ろ盾を失い,梯子を外される危険性を感じている可能性がある。
問題は中国本土である。
まず,中国本土は誰が米国大統領になろうと,米国を警戒していると思われる中,先ずは,「米国自身の二極化による混乱」と,「米国の国際社会に於ける相対的な影響力の低下」をtake chanceして,中国本土の覇権を少しずつ強めてくる可能性は十分にあろう。
そして,特に,「人民解放軍」に軍事的覇権の拡大を意識した動きが見られると,中国本土の東アジア地域に於ける脅威は高まるのではないかと予想される。
尚,統制国家色を強める習近平政権に対する危惧を示す中国本土勢力の中には,今,混乱している米国大統領選挙に水面下で関与し,習近平政権に対して,相対的には強い圧力を加えるであろうと見られるトランプ大統領の再選に向けた援護射撃を未だにしていると言った情報もある。
いずれにしても,今回の米国大統領選挙は,米国に,そして世界全体に,今まで以上に大きな影響を与えると予想され,大いに注視したい。
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