世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米・中狭間の日本の国家戦略
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.09.14
アメリカも怖い国
アメリカはイギリスと戦争して独立し,自分の力で新しい国を造り,発展しようとして建国した国である。アメリカ原住民を虐殺し,西へ西へと拡大し,中国にまで手を伸ばした。市場として中国に先ずアヘンを輸出して儲けた。アメリカは他国を自分に従属させる。アメリカは,ある国の行為がアメリカの利益に反すると分かるとその国を徹底的に叩く。友好国,同盟国であっても容赦しない。目には目を貫く。
アメリカは,一時モンロー主義で内に籠ったが,基本的には外に拡大していく「シーパワー」の国である。アメリカには「ディープステイト」というものが存在する。国際金融資本家のグループであるが,いろいろの国を戦わせて,両方に武器・カネを与えて,金儲けをする。これに引っ掛けられないようにしなければならない。
アメリカは,同盟国である日本でも,もしアメリカにとって日本の行動に問題があれば容赦なく徹底的に攻撃してくる。アメリカは怖い国である。しかしこれは覇権国の一般的な性質である。日本はこれに引っ掛かり,第二次世界大戦に突入してしまった。
今アメリカ議会は,「レーガン時代からの中国への関与政策は間違っていた」と言った。それは中国がアメリカの関与政策を拒否したからである。「これから中国共産党と中国産業との付き合いを変える」と宣言した。中国と付き合わないことによる経済的なマイナスの影響があるが,それでも対中戦略を変えることに国民に訴え,同盟国にもその理解を求めている。しかしアメリカは,中国のハイテク産業を叩く場合でも,対中関係を完全に遮断する禁輸を「寸止め」で抑え,アメリカの打撃を最小限にしている。トランプの「ディール作戦」である。
アメリカは,中国に対する新しい国家戦略として4つのことを挙げて,実行しようとしている。
- 1)アメリカの国土,国民の生活,価値観を守る。中国の共産主義に屈しない。
- 2)それを実行するために,アメリカの経済力を更に強化する。
- 3)力(軍事力)により平和を維持する。
- 4)同盟国やその他の国に対して,アメリカの影響力を強化する。
こうした戦略は,危険な中国に勝手なことをさせないために中国をコントロールすることである。利害が一致するところは中国と協力する。だが競争,対立,紛争になるときは中国を勝手にさせないようにコントロールする。
近年経済力を衰退させてきたアメリカは,複数の「利害関係者」(オーストラリア,日本,イギリス,EU,インド,フィリッピンなど)とパートナーシップを組んで,中国をコントロールしようとしている。経済的な完全なディカップリングではない。
日本の戦略:「賢者の交わり」
覇権国に対して経済や技術で迫る国はその覇権国に叩かれる。覇権の座を侵すような素振りを見せるだけでも叩かれる。これは「ツキジデスの罠」と言われるものであり,近代の歴史の中の事実である。これで中国が今アメリカにやられている。日本は1960年頃から経済発展をとげたが,日本は資源のない国で,輸出をして外貨を稼ぐ必要があり,アメリカの市場を貸してもらったという気持ちで,アメリカに商品を輸出した。従って日本はアメリカの覇権の座を獲ろうという気は全くなかった。ところが「一人当たりGDP」で日本がアメリカに接近した1989年頃,ソニーの盛田昭夫氏と石原慎太郎氏が,『「NO」と言える日本』を書いて,「安い良い製品を輸出して何が悪いか」,「アメリカは日本の半導体がなければ何も作れない」などと言ったために,アメリカに叩かれた。それからアメリカにより半導体戦争,自動車戦争を仕掛けられ,日本半導体産業も日本家電産業も潰されてしまった。その後も「構造協議」,「年次改良要望書」により,輸出規制をさせられ,日本産業の力を弱体化させられた。日本が,アメリカの家電産業を撃退し,アメリカ自動車,半導体産業を窮地に陥れたのは,日本の政府,産業界がアメリカの覇権の座を獲ろうとしたものではなく,何も考えないでただ日本の商品をアメリカ市場に輸出したためである。日本は「国家戦略」「産業政策」を持っていなかった。アメリカへの輸出をアメリカが怒りだす前に,自ら輸出をコントロールするか,アメリカで生産する戦略を立てるべきであった。
中国は意識的にアメリカの覇権の座を獲ろうとして,アメリカに叩かれているが,この中国の習近平の動きの方が,国家の戦略としては大きな価値がある。
覇権国のアメリカは,自分の不利益になることをする国を徹底的に叩く。終戦直後もアメリカのGHQは,日本が再び強国になり戦争する国にしないように,日本の動きをいろいろと制限し,アメリカに従属させるように日本人の心を変え,日本の国力を弱体化させた。そのために日本に頭脳を持たせないようにしてきた。
これからの日本は,先ず自分の力を正しく認識し,同盟国のアメリカの性格,中国の性格も正しく分析して理解したうえで「国家戦略計画」を立てて,日本の発展を図らなければならない。現在は「情報戦争」,「超限戦争」の時代であり,日本の情報力,知力を高めなければならない。日本は国家予算の中の教育費を1980年の12%から2019年4%に削減してしまい,大学の科学研究力を低下させ,日本人の知的能力を劣化させている。
国民の富を含めた「日本の国益」は何であるかを考え,日本にとって良いことと,悪いことを冷静に見極め,そして日本の考えと行動もアメリカにどんな影響を与えるのかを見極めたうえで,行動する必要がある。中国に対しても同じことである。日本の政治・外交は「君主の交わり」,「賢人の交わり」で行かなければならない。
「黒船の襲来」で動く国にしてはならない。「彼を知り己を知れば百戦殆ふからず」を徹底しなければならない。そのためには日本国の頭脳としての「経済企画省」,「情報庁」,「国立シンクタンク」を設置し,情報力,知力を高め,適切な国家戦略を立て,日本の発展のためにそれを実行しなければならない。
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