世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本産業を再編成する
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.07.27
国家戦略としての先端技術産業の育成強化
21世紀の日本経済を拡大発展させるための先端技術は何であるか,戦略産業は何であるかの青写真を造り,これをもとに国のリードで産業政策を実施することが必要になる。国が日本企業の株式所有を高めたが,これは,国が日本産業の競争力強化のための再構成,再編成をする絶好のチャンスである。
全体主義国家の中国は,この40年間,外国から先端技術を盗むことを含めて先端技術の開発に国を挙げて大きな力を入れている。そのようにして通信機器システムのHauweiを造り,精華大学やいろいろの研究所と共に鉄道産業,航空機産業,半導体技術産業,AI技術産業,宇宙技術産業などを国家主導で次々と開発している。「中国製造2025計画」を策定し,実施して,アメリカの覇権の座に挑戦している。
アメリカも国が先端技術を開発してアメリカ産業の競争力を強化してきている。言うまでもなく先端技術はDARPA(国防高等研究計画局)や大学,国立科学研究所が開発し,その成果を民間企業に移している。アメリカは,このコロナ危機に際して,大企業,中小企業に資金を投入しているが,しかしどんな企業にも金を投入するのではなく,これからのアメリカ経済にとって重要な企業,先端技術商品を持っている企業に金を入れているのである。アメリカの中小企業庁(SBA)と地方銀行が,先端技術という観点で,企業を選別して,資金を注入している。更にアメリカ政府は,コロナ危機で企業のM&Aが進み独占化によりイノベーションを殺すものが出てくることを防ぐために,売上高が1億ドル以上の企業やファンドを対象に統合や買収を禁ずる「パンデミック独占禁止法案」を制定した。
ドイツも,多くの公的科学技術研究所であるフラウンホーファー研究機構(FhG),マックス・プランク協会,ヘルムホルツ協会,シュタインバス財団(StW),ライプニッツ学術連合,IVAM(ネットワーク組織)などで先端技術の研究開発をし,デュアルシステム(企業で職業訓練をする教育制度)などを基に,その技術成果と人材を有力な企業に提供して,戦略産業,戦略企業を育成している。ある分野の世界市場シェーア・ナンバー・ワンの競争力をもつ多くの「隠れチャンピオン企業」がそれである。
フランスも,「産業技術革新庁」を中心に「競争力中核拠点」という「産業クラスター」を造り,国が先端技術の開発を行い,大型国家プロジェクトを開発している。フランスは昔から国家プロジェクトとして大型産業を興してきた。コンコルド,エアバス,先端コンピューター,宇宙開発,民生用原子力,ミニテル(情報通信端末),半導体,燃料電池,インテリジェント自動車などである。重要な戦略産業を国有化して強化している。
日本は,1970年代官民一体となり産業政策を進め,奇跡的な経済成長を遂げたが,アメリカからそれに文句を言われ,叩かれたために,「経済企画庁」を解散させ,政府内部でも「産業政策」をタブーにしてしまった。企業も「中央研究所」をたたんでしまった。そのため日本はこの40年間,国としての戦略産業を開発するという「産業政策」を実施してこなかった。
しかし日本が経済を再生発展させたいなら,官民一体となった「産業政策」を進めなければならない。国家主導で産業政策をやっているのはアメリカである。アメリカは,内部ではそれを「隠れ産業政策」と言っている。
日本企業の国有化を基に日本企業の革新
先で見たように,政府はここ7年間日本企業の株を買い続けてきたが,これからコロナ危機で国が更に日本企業に資本注入していくと,今年の末ごろには,国が日本企業の最大の大株主になり,日本企業は国有企業になる。
国有企業は,これまでの歴史の中では,経済発展には繋がらなかったことがある。国有化はもろ刃の剣で,国有化で企業が内部から潰れるか,あるいは国の戦略産業として成長するかは,考え方とやり方による。何も考えないで国有化すると,かつてのイギリスの国有企業やソ連の国有企業のように,その企業は死んでしまう。国,地域社会の貢献する企業として「起業家としての国有企業」であらねばならない。株価の下がったときに中国ファンドやアメリカ・ファンドなどに日本企業が買収されることをなくすために,日本の戦略企業は国の株所有率を高める必要があるかもしれない。
ある調査によると,これまでの事例では,日銀保有割合が1%ポイント上昇すると企業のR&D投資は3.3%減少している。また社外取締役を増やすとR&D投資が増えるという事実もある。これには直接の因果関係があるのかどうかは不明であるが,日銀やGPIFが株価のつり上げや,運用益を狙ったもので,その企業の競争力体質などには興味がないからかもしれない。
期せずして起こったこの日本企業の国有化を基に,日本産業,日本企業を競争力のある戦略産業に仕立て上げる必要がある。アメリカに対しては,この資本注入は「パンデミック資本注入政策」であると言っておけばよい。
国益産業・戦略産業への革新と再編成
再編成のための基本方針- ●国益産業へ転換。税金を国に支払う企業(特別税控除はつくらない)。地域社会に貢献する企業。
- ●日本企業を先端技術による戦略産業に仕立て,イノベーションを続ける企業にする。
- ●国防・安全保障の面から必要な先端技術と戦略産業の青写真を創る。
- ●グローバル企業のように量は追わない。2千億円から2兆円程度の規模の企業を創る。ドイツの隠れチャンピオン企業を参考にする。付加価値の低い加工下請け企業は造らない。「マスプロではないカストメーション」。
- ●国立科学技術研究所の設立。先端技術を間発し,その成果としての技術・知識・人材の企業への供給。デュアルシステム。
- ●地域ごとに技術・産業センターを造り,「デジタルITによるサプライチェーン」で結ぶ。国防・災害に対し東京集中構造を解体する。
- ●日本経済社会の「制度資本」(教育,医療,食料,環境,通信インフラ6G,データベースなどの産業)を拡充する企業を育成・強化する。
- ●日本は自動車産業による富士山型の産業構造になっている。これを「八ヶ岳型産業構造」にする。
21世紀の日本経済,日本産業が世界市場で競争優位になるような産業構造に仕立てなければならない。日本はこれからの21世紀世界の経済として新しいサプライチェーンを基に,日本の産業を国益産業として再強化し,競争力ある戦略産業構造に組み替える必要がある。
幸い日本企業の国の所有株式比率が高くなり,更にこのコロナ禍で日本政府の企業に対する資本注入して,国家の産業政策を強力に進める必要がある。
時限を決めて,これから10年ぐらいで,日本の企業を「国益産業」,「戦略産業」として再編成し,強化する。政府出資分は将来,業績が上向いたときに出資先による買取や他社とのM&Aなどで回収をする。
そのために「経済企画省」と「国立科学技術研究所」を造り,21世紀の日本の「戦略産業」,「先端技術」の青写真を創り,それを具体的に日本の企業の中で実行・展開する。
関連記事
三輪晴治
-
[No.3479 2024.07.08 ]
-
[No.2213 2021.07.05 ]
-
[No.2205 2021.06.28 ]
最新のコラム
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
New! [No.3626 2024.11.18 ]
-
New! [No.3625 2024.11.18 ]
-
New! [No.3624 2024.11.18 ]
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]