世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1813
世界経済評論IMPACT No.1813

「コロナ禍を福と為せ」令和維新

小林 元

(元文京学院大学 客員教授)

2020.07.20

 最近の報道の中に「日本衰退」を予告するようなものが相次いでいる。

 「日本の1時間当たり労働生産性は米欧比4割低い(18年度OECD資料)」

 今世紀に入って20年世界の潮流であるデジタル化に日本も遅れてはならないと骨組みは作られてきた。しかしすぐ使えるようになっていない実態が今回のコロナ禍の中で白日の下にさらされたのである。マイナンバーカードの普及率が17−18%にしかなってないのには驚く。仕組みは作るが,普及率を上げる地道な努力がなされていない。また一人当たり10万円支給はこのカードをベースにオンライン申請できるとされたが,実際は手続きが複雑でうまく機能せず中止になったところが多いときく。郵送により申請しても完遂までにあと1−2か月かかるという有様。韓国ではオンラインで2週間ほどでとれたという。

 韓国ではコロナウイルス感染者と濃厚接触者の追跡にスマホのネットワークを使い,感染の拡大を最小限に抑えることが出来たと伝えられている。

 凄まじい現実を突き付けられたのは日経7月7日付記事「危機が促す教育改革」だ。「日本の教育はデジタル対応で20年は遅れている。日本の学校は情報機器を遊び道具として遠ざけたが,世界は鉛筆やノートと同じ文房具にした。今回のコロナ禍の下でもユネスコ参加11か国の中で日本以外はすべて休校中にオンラインで授業を続けていた。これには出席していた萩生田文部科学大臣も絶句した」と報じている。

 BS朝日の「迷宮グルメ駅前食堂」(20/7/10)で報じたポルトガル事情にも目を洗われた思いだった。日本人の男がポルトガルのある中堅都市の駅に降り立ち,食堂を探す。駅前に自転車が十数台つながれている。しばらくしてこれは市が所有管理する自転車置き場だと分かった。使用したい者は,スマホで自らを登録し,使う時にはスマホを翳せば開錠される。使用代金は自動でスマホ上の勘定から引き落とされる仕組みだ。注目したのは,いわばヨーロッパの一隅ともいえる場においても,①輸送機器を共有している,②大気を汚染しない機器を使用している,③3密にならないようスマホを最大限活用している,ことであった。考えてみればヨーロッパの人達はすでにこのような形で来るべき社会を日々の生活の中に地道に取り込んでいるのに,我々日本人は現状に安住してやってこなかったのだと思う。

 7月11日付産経新聞電子版には「日本版シリコンバレーへ,政府が東京,横浜など4都市圏を選定」という記事が載っている。またかという思いでこの記事を見た。市場価値10億ドル以上の「ユニコ—ン企業」を各都市で5社以上作るのだという。当然IT企業がその中核となる。日本にもシリコンバレーのようなものを作るという構想はもう30年程前から聞いてきた。ユニコ―ン企業は平成30年2月現在で,米国151社,中国82社,日本は1社のみ。ベンチャー投資については29年米国が9.5,中国3.4,欧州0.8兆円に対して日本は0.2兆円にすぎない。いくら箱作りを試みても,中味が整わなければ,ユニコーン企業は出来上がらない。そのためには,かつての日本社会(例えば本田やソニーを生んだ第二次大戦後)が持っていた飽くなき好奇心,なんとかして革新的な物を作ろうとの執念,あの精神を再び取り戻すことから始めなければならないと思う。

 思いを同じくする人は少なからずと思うが,日本の現状はまさに「現状に自己満足し,新しいことに挑戦するリスクを取らない」,言わばぬるま湯に浸りきった腑抜け蛙ではないのか。現状維持とは世界においては退歩を意味する。このままでいくと,10年後には日本は「先進7か国の1つ」と呼ばれなくなるのではないか,そう考えるのは筆者ばかりではあるまい。

 筆者は40年間にわたる海外事業に携わった経験をもとに10冊を上回る本の出版と論文を通じて日本ビジネスの問題点を提起してきたが,今は歯がゆさと虚しさを覚えるのみだ。

 しかし今回のコロナ禍は,図らずも甘えが至るとことに見える日本の現実をさらけ出して見せてくれた。禍を福としなければならない。今次のコロナ禍に「このざまで本当にいいのですか,このままでは世界で取り残されますよ,日本の社会を世界の潮流に合わせて抜本的に変える令和維新に取り組む最後のチャンスがきているのではないですか」という天の声を聞き取るのは筆者だけだろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1813.html)

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