世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
これからの戦争:「超限戦争」:GAFA分割とサプライチェーンの見直しへ
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.06.15
戦端は開かれた
これからは,核兵器や通常兵器による戦争ではない戦争が拡大する。情報戦争,外交戦争,プロパガンダ戦争,諜報戦争,心理戦争,サイバーテロ,メディア戦争,司法戦争,経済制裁戦争,関税戦争,サイバー攻撃戦争,金融戦争,「ショックドクトリンによる侵略」などである。そして,敵からか味方からか分からないような「情報ウイルス」,「コンピュータ・ウイルス」が世界中に飛び散る。それは,多くの場合はこの「サイバー・デジタルネットワーク」のスペースで起こる。これがリデルハートのいう「Indirect Approach」であり,「超限戦争」と呼ばれるものである。世界は互いにあらゆる手段で攻撃し,迎撃することになる。日本はこれにどう対峙するかである。
日本は,戦後すぐからアメリカにIndirect Approachで攻撃されてきた。特にアメリカは,これで日本の「独立心」を壊してきたし,貿易摩擦戦争,日米構造協議,年次改善要望書などで日本から富を奪ってきた。
中国は,膨大な金と人を投入して計画的に,サイバー・ネットワークを利用して,アメリカ,日本,EUの政治家,メディア,産業界,教育界に工作をし,多くの親中派をつくり,侵略を進めてきた。しかも相手国の人々がそれとは気づかないうちに攻撃しているのである。中国は金で国連,WHO,IMFなどの国際機関を巻き込んでいるといわれている。日本でも多くの政治家,企業が中国からの金の餌につられて,それと自覚することなく,自国に対して不利なことをしているといわれている。
国民国家は,独自のサイバー・デジタルネットワークをもって,外からアタックしてくる「Indirect Approach戦争」に対して迎撃しなければならない。新しいセキュリティが必要になる。これは他国のシステム機器に頼ることはできず,自分のものを開発して持たなければならない。
ビッグテックGAFAの分割へ
多くのグローバル企業は疲弊してきたが,GAFAのような「ビッグテック」はグローバル化を続け,大きな市場の中国をも飲み込もうとしている。GAFAはデジタルシステム,データベースを独占しており,自国にも刃向うことがある。Googleは2017年北京でAI研究センターの設立計画を発表し,中国のインターネット企業のテンセントとパートナーシップを模索している。マイクロソフトは北京のためのオペレーティングシステムとして「ウインドウS10 中国政府版」を開発している。アメリカのビッグテックは,中国のスパイダーネットの中で,中国用の技術を開発して中国のデジタル権威主義の強化に手を貸しているようだ。しかし中国は,GAFAが中国のデータをアメリカに流し,アメリカからサイバー・アタックされることを警戒し,これを完全には受け入れていない。
コロナウイルスの蔓延を防ごうとして人の移動を監視,コントロールしてきているが,アップルは世界の国々の人の移動のデータを発表した。同社は世界中のスマートホーンでデータを引き出しており,これは世界の人々を監視し,コントロールすることに使われ易い。GAFAの独占が拡大しつつある。独占は新しいイノベーションを殺してしまう。
このためにトランプはビッグテックのGAFAを分割しようと動き始めている。競争力とイノベーションを維持するためにも,この世界も,市場競争,適切な規制が必要となる。日本も,アメリカGAFAの手から逃れ,独自のテクノロジー企業を創らなければならない。
グローバル・サプライチェーンの組み換え
資本主義経済の経済活動は,アダム・スミスが指摘したように,「分業」を基にした生産で,比較優位による商品をベースにして国際分業が進み,近代経済が発展してきた。しかし1990年以降のグローバル化は,生産の工程を細分化し,工場内の分業を越え,世界中で最も安い賃金と生産コストを求めてグローバル・サプライチェーンを創り上げた。これは「羊羹長屋のサプライチェーン」と呼ばれた。特に1980年ころからアメリカの助けを得て中国の鄧小平が「世界の工場」をつくってから,それがグローバル・サプライチェーンに組み込まれた。しかし今回のコロナウイルス災害により,こうしたグローバル・サプライチェーンが大きな脆弱性を持っていることが明るみにでた。
コロナウイルス災害で,マスク,手袋,防護服,人工呼吸器その他のものが緊急に必要となったが,未だにその供給ができていない。これまでの大量生産をベースにしたグローバル・サプライチェーンは,緊急需要に対して対応できないものになってしまった。変動する市場はフレキシビリティをもった代替生産能力が必要である。在庫を持たない「かんばんシステム」は変動する市場には対応できないことが分かってきた。
コロナウイルス災害で明らかになったことは,特に日本において,「緊縮財政政策」で,医療設備が削減され,医師の削減,病床・保健所の削減,感染症対策や国立感染症研究所の予算が削減され,疫病には対応できなくなっていた。特に日本では医療関係の病院のベッドは95%が埋まらなければ採算が取れないような構造になっており,こうした疫病には対応するのが困難なことが分かった。
経済社会の生態系は,生産工程を細分化してぎちぎちに繋ぎ合わせたものでは成りたたない。社会経済システム系には「安全装置」,「スラック」(遊び,余裕)が必要である。日本では,食の自給率の問題を含め,極めて脆弱なものなってきている。「安全保障」「危機管理」という概念を日本は再認識する必要がある。
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