世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1766
世界経済評論IMPACT No.1766

コロナウィルスが修復不能にした米中デカップリング

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.06.01

トランプの米中関税戦争

 トランプは「アメリカファースト」と言って,アメリカ経済を立て直すために「グローバル化」を破壊すると宣言した。グローバル化を進めてきたアメリカの国際金融資本,大企業にもそれを求め,グローバル化によってもたらされたアメリカの貿易赤字について,最も大きな中国の貿易黒字を削減することを目的にして中国に関税戦争を仕掛けた。更にトランプは,具体的に中国の通信機器5Gの排除をし,中国製品を買わないようないろいろの制裁をかけ,中国を追い詰めてきた。これは単なる関税戦争ではなく,米中の覇権戦争であり,「ツキジデスの罠」である。アメリカは,中国の全体主義の共産党政権が倒れ,民主国家になるまで戦う積りのようだ。トランプは,国内に対しては「アメリカファースト」だが,外に対しては利益が得られるのであれば,取引としてそれに干渉して,利益を手に入れる。

 こうした中で,2019年10月に新型コロナウイルスが中国の武漢で発生した。忽ちそれがアメリカ,イタリア,スペイン,フランス,日本など世界中に飛び散り,世界の経済がストップしてしまった。このコロナウイルスが,既に始まっている世界大恐慌の火に油を注いだことになった。

 この武漢コロナウイルス災害で,明るみにでたことは,1990年からのグローバル化の行き過ぎによる産業の疲弊,国民大衆の貧困化が進んでいたことであり,そして中国を中心とした「グローバル・サプライチェーン」の脆弱さであり,世界が中国の「世界の工場」に依存し過ぎていたことである。そしてグローバル化の行き過ぎにより世界的に自動車,石油,鉄鋼が過剰生産に陥り,これが世界的な過剰生産大恐慌に繋がっている。つまり世界の産業構造がこれから大きく変わることを意味している。

 そこでアメリカのトランプは,「アメリカファースト」と言って,自国の経済を修復することに走り出した。そして中国の「世界の工場」というグローバル・サプライチェーンを解体し始めている。そしてこのコロナウイルスが,アメリカと中国の「デカップリング」を決定的なものにしようとしている。この「デカップリング」はアメリカにも経済的に大きな痛手となるが,アメリカはそれに突き進む。これで世界の経済構造と国際秩序が大きく変わることになる。

強権統制と一帯一路で中国共産党は生き残るか

 トランプが,中国経済に大きなボディブローをくらわし,習近平を土俵際まで追い詰めたところで新型コロナウイルスが起こった。トランプの経済制裁により,殆どの中国の産業の輸出がストップし,中国不動産バブルも弾け始めている。中国経済はやがて崩壊すると多くの人が言っている。

 しかし中国共産党はしぶとく,簡単には崩壊しない。習近平はコロナウイルス災害を逆手に取り,形勢の挽回に動き出した。こうした疫病によるショックを封じ込むのは,情報統制をし,人民を犠牲にする全体主義的な中国共産党国家の方が民主主義国よりやり易い。中国はコロナウイルスを封じ込めるために,徹底した都市のロックダウンをし,ITにより個人の行動管理を実行している。キャシュレスの支払い記録,スマートフォンによる個人の位置情報と全国に張り巡らせた監視カメラ網による顔認証のデータをもとに感染を終息させつつあるといわれている。4月8日に武漢の都市封鎖を解除し,中国は,いち早くコロナウイルスを退治したので,まだコロナウイルスと闘っている国ぐにを助けるとして,マスク外交や医師団を派遣するという大キャンペーンを繰り広げており,その情報戦を繰り広げている。習近平は素早くウイグル人をも動員して,中国の産業の生産開始の号令をかけた。中国はコロナウイルスが発生しても,半導体と通信機器の生産は中断することなく稼働を続けてきた。こうして中国はこのコロナウイルスを逆手に取って,アメリカの覇権の座に迫らんとしていると見なければならない。リーマンショックの時も,中国は,間髪を入れず4兆元を投下し,結果的にこれで輸出を伸ばして貿易黒字として米ドル3兆ドルを獲得し,この資金で中国は「一帯一路戦略」を進めたのである。それにより中国はアメリカに挑戦できるという自信を得た。

 米中がデカップリングしても,中国は14億人の市場を持っており,その中で新しい生産・市場関係を創り,経済を維持することができるであろう。更に一帯一路でアジア,ヨーロッパ,アフリカを取り込み,版図を更に拡大していく可能性がある。しかし,習近平が恐れているのはトランプが仕掛けようとしてる「アメリカによる中国在米資産の凍結」,「アメリカの中国に対するコロナウイルス災害に対する賠償訴訟」,「在中国の日本企業とアメリカ企業の中国からの引き上げ」,「アメリカ株式市場に上場している中国企業の上場廃止」そして「共産党の内部の抗争」,「中国の民衆の政府への反乱」である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1766.html)

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