世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1759
世界経済評論IMPACT No.1759

コロナ禍と戦うアジアの日本人起業家達:ピボットでピンチをチャンスに!

佐脇英志

(都留文科大学 教授)

2020.05.25

 スタートアップ有力60社「事業継続に不安4割」,日本経済新聞5月10日(日)一面の記事である。新型コロナウィルスの感染拡大がスタートアップの経営に大きな影響を与えている。収入源や投資家からの資金調達の遅れから2割の企業が半年内の運転資金不足が懸念されているのである。

 これらは日本の起業家の状況であるが,アジアの日本人起業家たちの置かれた状況は,もっと悲惨である。日本政府の対応は法制上の理由から非常事態宣言であるが,アジア諸国の場合,大半がロックダウンで,強制的に外出を禁止し違反者は逮捕するものである。これにより経済の動きは完全に止まった。ロックダウン当初,筆者が参加したバンコク起業家たちのZoomミーティングでも,「店を閉められ売上ゼロなのに,高額家賃と給与の固定費がどんどん出ていく,心配で夜も眠れない」等の悲鳴が続出した。日本人駐在員と家族は,大挙して日本に帰国したが,日本人起業家達には帰る場所はなく,彼の地で耐え忍び生き延びるしかない。

 このようにぎりぎりまで追い詰められた逆境の中で,イノベーションを起こし,コロナ禍に果敢に立ち向かう日本人起業家たちに対し,ZoomとSNSで緊急取材を行った。

 19年間タイで日本向留学事業と2か所の日本語学校を営むJeducation社の長谷川卓生社長によれば,同社では,コロナに対するタイ政府の対応により,2020年3月24日に日本語学校が停止になり,4月に日本渡航予定の百数十人の留学生が渡航不能になった。コロナの混乱もあり受講者は徐々に減少し3月末の時点での学生数は300人程まで落ち込んだ。そこで,3月末スタートの2学期から教室をすべてZoomに切り替え,SNSなどで広告した結果,現在400人~500人(期間過去最高)まで増えたとのこと。加えて,Zoomオンラインを活かして,子供向けコース,週末スピードアップコース,多国籍化コース(世界中が対象),漢字クラス,日本語検定対策コースなどを増やしている。留学事業はまだ再開できないが,「オンラインZoomを通して東南アジア+世界中の日本語学習者とつながり,日本留学提案をすることにより,世界から日本への流れを活発にしたい」と長谷川氏は語っている。

 タイバンコクで4店舗,ベトナムハノイ1店舗のマッサージ店を営むアットイーズ社の上野社長によれば,同社は3月18日から休業命令で全店閉店となった。コロナ禍の影響で2月後半に売上が10%~20%減,3月に入って一気に50%減となり,18日にゼロとなった。約100名の従業員が完全に働けなくなった。最悪の危機の中,スタッフが,可愛い布マスクを試作してきて,これを売りましょうと提案。即決断し,マスクの製造販売縫製スタッフが8人(うち5人は縫製経験のあるセラピスト)に加え,約30人(セラピスト,受付スタッフ,掃除婦,ドライバー等)で,にわか工場を作り,流れ作業で,布折り,糸切,検品,包装を行った。従業員総出で皆の食い扶持を稼いでいた。1日千枚の布マスクを製造し,オンラインと店頭,さらに日本にて販売を行った。本件の波及効果で,ハーブ商品や健康に関わる商品を拡充。オンラインでの販売も準備,日本でも売る仕組みを構築中。さらに,YouTubeチャンネルをスタートした。

 マレーシアを中心にアジアでイベント/人材紹介/メディアを展開するUNLOCK DESIGN社の山口聖三社長も,コロナ禍に突然見舞われた。マレーシアでは,3月18日に全面的な移動制限を導入。イベント事業としては,自粛制限で開催不可の状況となり,政府系も企業も大学も基本的にリアルイベントが延期か中止となった。同社では,従来のイベント事業をバーチャル・オンラインに変更し,データドリブンでデジタルトランスフォーメーションを支援する事業にシフトした。より多くの参加者,スポンサー企業,コンテンツの量を取り込むことができ,更に出展企業様向けに,より詳細の「データ」を収集・分析・活用することができる。問い合わせや協賛企業は一気に増え,7月のインドのイベントにはgoogle,アリババ,Intel,IBM,アクセンチュアが参画する。さらには,最近は大学生や若手社会人向けにアジアでの起業やコロナのピンチをチャンスに変えるマインドや思考方法,with/afterコロナ時代に必要な人材についてオンラインでセミナーを行なっている。今期売上3倍増を目指す。

 カンボジア+5か国で,ビジネスを学ぶインターンシップをはじめとする,大学生向け海外インターンプログラムを運営する森山たつを氏は,世界的に航空機の運航が減ったことを受け,3月15日に全プログラムの中止を決定。GWプログラムもすべてキャンセルになった。逆風の中,オンラインのメリットを生かし「ポストコロナのオンライン就活大学」を立ち上げ,就活に関する情報を毎日発信している。現在メンバー250人。6月に協力大学にてトライアル予定,状況をリアルタイム発信する。7月に参加者を募り,8月に個人参加のプログラムを開始する。

 以上,海外に飛び出していった日本人起業家たちは,もともと慣れない環境の中で,試行錯誤しながら,何度もピボットを重ねて,今のビジネスに辿り着いている。今回のコロナ禍にあっても,日本内国企業より,環境変化に対する適応力が素早い可能性が高い。今日本でコロナ禍に対し成すすべなく,打ちひしがれている日本企業にとって,これらのアジアの日本人起業家たちの機敏な対応力に学ぶ点は多い。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1759.html)

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