世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1747
世界経済評論IMPACT No.1747

新型コロナウイルス戦争

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.05.18

 新型コロナウイルスがまだ世界で猛威を振るっている。1990年の冷戦終結後からの紛争,テロ,感染症,自然災害による犠牲者という死者は戦争による犠牲者よりも上回っている。その中でも感染症の犠牲者が最も多い。中国は古来疫病と飢饉により国が滅びてきたし,疫病は,しばしば,止むことなく,世界を襲い大きな死者を出してきた。

 コロナウイルスとの闘いは「有事」であり,戦争である。アメリカのトランプは「これは戦争である!」と宣言した。トランプは,最初は敵を少し甘く見ていたが,コロナウイルスが猛威を振るいだすと戦線を整え,矢継早に果敢に戦っている。ドイツのメルケルは,3月18日コロナウイルスと闘うために国民に向け演説した。「重要なのは,ドイツ国内のウイルスの拡散スピードを緩やかにすることです。そして,その際,これが重要ですが,1つのことに掛け(賭け?)なければなりません。それは,公的生活を可能な限り制限することです。もちろん理性と判断力を持ってです。私たちはできる限り多くの経済活動を維持する心算です。私は保証します。旅行および移動の自由が苦労して勝ち取った権利であり,このような制限は絶対的に必要な場合のみに正当化されるものです。そうしたことは民主主義社会において決して軽々しく,一次的であっても決められるべきものではありません。しかし,それは今,命を救うために不可欠なのです」。

 イギリスのジョンソンも,コロナウイルスに感染しながら,緊急事態宣言を発して,国民を奮起させ,適切な策を実行し,それと闘っている。そして「武漢コロナウイルス」のために,ジョンソンは中国ファーウエイの5G設備を使わないことを決定した。外国ではこうした緊急事態で出した政府の規制に違反した人に罰金を科すなどして,その規制の徹底を図る。

 日本では,殆どの人が「海外諸国とは違って日本には強制権がない」と思い込んでいる。だから「緊急事態宣言」を出しても,安倍総理も,小池知事も「できるだけ外出の自粛をお願いします」としか言えない。医者,看護婦,医療関係の人,食品供給,販売,交通,流通に携わる人は,戦時のような戦いをしている。この方々はウイルスという弾に当たるのを覚悟のうえで職務をしておられる。事実,医者や看護婦が患者から感染して,亡くなられた方もおられる。こうした有事には,国は国家主権による「強制権」をもって事に当たらなければならいし,そしてそれによる国民の経済的被害を適切に補償してやらなければならない。

 安倍首相は,時々,「それは私自身に責任がある」とは言うが,「私が責任を取る」とは決して言わない。「責任を取ればいいとういうものではない」と言って逃げる。しかし,日本の安倍内閣がコロナウイルス災害にたいして後手後手で,適切な動きをしていないと外国から言われているのは,安倍首相が臆病で,能力がないためではなく,「国家の主権がないから」仕方がないと思っているのかもしれない。「国家主権」がないので,「国民を守る」「国を守る」という「責任」を果たす考えがないのであろう。ただ「私も内閣も努力はしていますよ」という言い訳をするために,中途半端なことをやっている。

 4月28日は「主権の回復の日」で,それを2013年に祝ったようであるが,日本はまだ「国家主権」を回復していない。まだ「半植民地」の状態である。国家主権とは,「対外主権」として,国家の独立性を保ち,外国からの干渉を受けてはならないこと,「対内主権(統治権)」として,領土に対して国家が統治する権利であり,自分の手で国の安全保障をし,教育に他国の干渉を受けないために行動する力である。有事の時は,国家主権としてのこの対外主権,対内主権が必要である。

 日本国憲法には,国は国家主権としての「強制権」を持たないとも,持つともつとも言っていない。だから今の憲法でも,日本は国家主権を持つことはできる。恐らくアメリカのマッカーサーは,日本が再び戦争しないようにするために「主権国家」としての「強制権」を持たせないようにしたのだろう。しかし戦後75年たったので,今や日本の「国家主権」を回復することが必要である。これは我々の意識,意思,決意の問題である。

 これからは核兵器を使った大きな戦争は起こらないであろう。核兵器は敵と共に自国も確実に破壊されるからだ。しかしこれからの戦争は,兵器によるものではなく,サイバー攻撃戦争,情報戦争,プロパガンダ戦争,テロ,拉致,スパイ戦争,経済制裁戦争,関税戦争,種子法改正などのような外国企業からの侵略戦争などとして起こる。かつてアメリカにやられた「日米半導体戦争」,「構造協議」,「年次改良要望書」などもそうである。これらも戦争であり,兵器による戦争よりダメージは大きい。これはリデルハートの言う「Indirect Approach」であり,「超限戦争」と呼ばれているものである。「有事」としてこれらに対処するには「国家主権」が必要である。

 平成は「平和の時代」であったと日本人は安堵しているようだが,そうではなく,平成の時代もこうした外からの「Indirect戦争」により国民の富が失われてきていたのである。北朝鮮に拉致された人を取り戻すには,有事のときの国家主権の施行という覚悟がなければ取り戻せない。コロナウイルス戦争で必要な検査キット,人工呼吸器,防護服などの医療機器の生産・調達は,「国家主権」がなければ適切にはできない。国が国民を守ってくれるのであれば,緊急事態には,国民は国の「強制権」に喜んで従う。

 今の国民が理解している「日本の憲法」は平和の時しか機能しないものである。日本の憲法を改正するというなら,この点を変えなければならない。兵器を使って戦争をする国にするための憲法改正ではない。危機管理のできる,自由と秩序のバランスの取れた国にしなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1747.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム