世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の緊急事態宣言
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.05.04
安倍首相は遂に4月7日に「緊急事態宣言」を出した。7都府県に「5月6日までの外出自粛」を要請した。同時に新コロナウイルス災害に対する「経済対策:事業規模108兆円」を発表した。
国家の一大事のとき,国民の心を一つにして事に当たるための「緊急事態宣言」は重要なものである。憲法にその規定があるとか無いかの議論ではなく,「客観的緊急事態宣言」である。しかし国民がパニックにならないように,この緊急事態宣言を出して,国難を克服するには,国の強い「リーダーシップ」が必要である。さもなければ国は乱れる。
しかし今回の日本の緊急事態宣言では,日本政府がそのリーダーシップを発揮していないことが明らかになり,大変な混乱を起こしている。和牛券,お魚券,旅行券,クーポン券,マスク2枚などの思い付きの議論で時間を無駄に費やしてしまったし,この緊急事態宣言は,国民の批判や医師会からの意見に押されて,やっと政府が出したというもので,遅きに失した。どうもこれは「安倍政権の緊急事態」のための対策にようにも見える。
経済対策として政府が出した「減収・低所得世帯に30万円を給付」についても,給付の範囲,金額,緊急実施という点でも問題があり,それについての外からの批判で,政府は,閣議決定したその対策を撤回してしまった。そして他の政党から出てきた「一律国民に10万円の支給」に動いた。それも所得制限が必要だとか,申請したものにだけ支給すべしという声もまだ出ている。
国が緊急事態宣言で「外出自粛」を要請したので,国が事業活動の中止による休業補償をすべきであるが,政府は「それぞれの店の損失額が把握できないうえ,不公平感がある」のでそれはできないとか言ってきた。それに対する国民の批判の声で,やむなく政府は,今ある雇用保険による「雇用調整助成金制度」を使い,損失の補填をすると言う。しかしこれは手続きが複雑で時間がかかり,支給は8月ぐらいになりそうだし,しかもこれは先ず雇用主が支払った後での国の「後出し」であり,しかも「雇用保険」は限られた財源しかないので,それをオーバーしたらどうするのかまではまだ考えていないようだ。
アメリカ,イギリス,カナダ,ドイツ,フランスなどでは,新型コロナウイルス災害対策として3月半ばには経済対策を決定し,国民への給付金,休業補償の金を,4月第二の週には国民の手に届け始めている。
日本の政府は,これまでいろいろの対策において「逐次投入」あるいは「後払い」か「一部補助」を貫いてきた。火事場でも,消防隊が水をちょろちょろしか放水しなければ,建物は全焼してしまう。これまでの日本政府の科学技術研究に対する投資も,「逐次投入」,「後払いの一部補助」でやってきたために,「トータルの投資額」の割には成果はあまり挙がっていない。
日本政府は,基本的に,国民のために金は出したくないという気持ちがあるようだ。これは日本政府と財務省が「緊縮財政」という亡霊に追い回されているからである。
緊急事態宣言を出すときは,国は,国民の信頼が得られ,本当に災害を克服できるような「正しい経済政策」を策定し,強いリーダーシップをもって行動しなければならないが,今回の新コロナウイルス災害に対しては「正しい経済政策の策定」と「国の強いリーダーシップ」が欠落していた。
現在の日本人は,目先のことしか見ないし,その先は見ないことにしているようだ。日本人は「いやなこと」,「難しそうななこと」は障子を閉めて,見ないようにする癖がある。日本人は,今だけ,金だけ,自分だけで動いているのではないかと思われる。これまでの森友学園・加計学院問題でもそれが表れていたし,桜を見る会の問題もそうである。
リービ英雄は「日本には小説はあるが,大説はない」と言った。つまり日本には「国」,「公」を考える人が少ないということである。
国家公務員法には「国民全体の奉仕者として公共の利益のために働くこと」になっている。そして仕事の承認は「正当または真実,真理を確認して」行われること。誰かのための目先の忖度で動いてはならない。国家,国民にとって何が良いか,何が必要かを常に考えることである。
企業の経営でも,経営者を含めて社員が「何が会社のためにベストであるか」を常に考える会社は発展する。自分の出世のためだとか,自分の部・課のためではない。しかし日本の1970年代の高度経済成長期には,殆どの日本の官僚は,正義心をもち,自分のためではなく,日本の国をどう発展させるかを真剣に考えて,官民一体となり働いた。
今世界に襲い掛かろうとしている大恐慌は,新型コロナウイルス災害の問題だけではない。これから世界の経済構造を大変革する大恐慌が来る。米中の「ディカップリング」ということを含めた世界経済構造の大変動である。また世界的な食料危機が起こり,そのためにスタッグ・インフレになる恐れもある。あるいはどこかで戦争が起きるかもしれない。コロナウイルスの火消しと同時に,こうした世界の動きにどう対処し,どう乗り切るかの「政治経済政策戦略計画」を建てなければならない。
1929年の大恐慌からそれを抜け出すためにアメリカも誤りを犯しながら,ニューデール政策,軍事産業とイノベーション投資で乗り超えたという歴史を学ばなければならない。日本政府は,そのために「経済企画省」のようなものを作って「長期戦略計画」を策定し,本格的な体制組織を整備して今すぐ動きださなければならない。
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