世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1719
世界経済評論IMPACT No.1719

人類に大変革を突き付けたパンデミック

高多理吉

(富士インターナショナル アカデミー学院長)

2020.05.04

 現代資本主義社会の行く末に対する不安が,近年,世界各地で増大してきていた矢先,今回の新型コロナのパンデミックが全世界を襲った。

 この事態は,人類が現在の世界のあり方を根底から変革することを突き付けたと,私は考えている。

 冷戦終了後のグローバル化は,市場が全世界に拡大したことを意味する。それは,一方では,世界の大繁栄の素地を提供することであったことは間違いないが,様々な,問題点を包含したことも意味する。

 現代資本主義社会で問題となっていた点は,まず,国内格差・国際格差が拡大したことである。米国では,2011年に勃発した米国ウォール街の占拠運動(1%の富裕層と残りの99%の格差に若者が憤激)にみられるように,格差問題が各国において,大きな問題となり,現代資本主義の弱肉強食の市場原理主義をどうにかしなければならないという意見が,書物,論文,メディア等で噴出していた。そして,中国のように,大競争に勝ちあがった国は,グローバル化を享受してきたが,アフリカ諸国のように,取り残され,土地を先進各国の食い物にされてきたケースも,国内のみならず,国・地域格差を助長してきた。

 また,当面の経済が優先され,後世代に付けを残す地球環境問題の解決は徐々にしか進展していない。有限な地球の資源に比較して,人口爆発ともいうべき人口増加は,誰が見ても大きなひずみを生起させる可能性が大であるにもかかわらず,経済成長を第一とする社会のあり方は,立ち止まって環境問題解決を深く思考する余裕を奪ってきた。

 今回のコロナ問題は,底流にあって,見えなかったものが露出したといってよい。いわば,満々と水を蓄えた池の水を清掃のために水を抜いた時,廃棄物や考えもしなかった異物が露出したようなものである。これらの要点を整理してみると,

 ①国の安全保障は,軍事力だけではないことが明らかになった。人間の生存権を確保することが,軍事と同等,あるいはそれ以上に重要であることが判明した。つまり,人間は食べることと,健康を保証されることが最も大切であるにもかかわらず,本気で,重要視してこなかった。

 今回,実に簡単な技術力があれば製作可能なマスク,アルコール消毒液が手に入らないのである。わが国はじめ先進各国にとって,きわめて高度な技術が必要とは思われない人工呼吸器,ECMOを始め,医療関係者の感染防止のためのゴーグル,フェイスシールド,ガウン,シューズカバー,医療用手袋などが極端に不足していることが明らかになった。わが国の感染者の隔離病棟,感染者の病床不足,医師・看護師・医療技術者の減少は,何年間にもわたって,医療費予算を削減してきた結果である。

 この事態は,感染症発生の際の基本的な機材生産を国外生産に切り替えてしまった結果であることが露呈した。また,先進各国とも部品供給のサプライチェーンの断絶で,工業製品も甚大な影響をこうむった。いわゆる,チャイナ・リスクがその象徴である。

 ②第二は,コロナ収束後(コロナ問題の継続中も含め)食糧問題が世界的な大問題として顕在化することを危惧する。コロナ問題で疲弊した農業を背景に,食糧輸出国は,ロシアをはじめ,穀類の輸出を禁止する動きがある。コロナとは直接関係ないが,東アフリカで大発生したバッタの大群が,アラビア半島,パキスタン,インドと移動し,中国に接近している。4000億匹とも言われるバッタの大群の通過した後は,穀物の抜け殻だけが残され,想像もつかない大被害をこうむっている。

 わが国の食料自給率は2018年で,わずか37%(カロリーベース:農水省発表)に過ぎない。日本は深刻な局面と対峙しなければならない覚悟と対策がすでに要求されている。

 ③我々人類社会に突き付けられた問題とは,いったい何であろうか。コロナ収束後,世界が覇権争いを激化し,自国ファーストのナショナリズムが世界を覆うか,逆に,今回の教訓から,人類社会が連帯の道を見出せるか,これが今後の世界の別れ道になるだろう。

 現在のところ,覇権争いの激化の予兆が感じられるが,もし,それが現実化したら,人類の未来は暗雲が覆う希望のない世界である。世界経済が大きく落ち込むことは,リーマンショックと比較にならない規模のものであることは容易に想像されるが,世界が連帯して人類の将来像を構築しなければ希望はない。この『希望』こそが,経済を活性化させるトリガーである。各国政権も,各国国民も覚悟と智恵が試される局面が遠からず来ることは確実であると言わねばなるまい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1719.html)

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