世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1716
世界経済評論IMPACT No.1716

インドネシアの外資誘致と労働法令の改正

川島 哲

(金沢星稜大学経済学部 教授)

2020.04.27

 インドネシアでは外資誘致をその主たる目的とした労働関係法令の改正の動きがみられる。その最近の潮流について以下で検討する。

 ジョコ政権は,約80あった投資や労働関係法を統合し,法制度改正の手続きに入った。具体的には,インフラ開発などを行う際には,中央政府及び地方政府の複数の省庁の許認可をおこなう必要があった。これを中央政府に一本化するものである。

 日系などの外資から投資環境の不満が高まり2019年9月に日経の取材に「労働法制を見直す」と語っていた(注1)。

 昨年10月のインパクトサイト(川島哲「インドネシア外資の参入の困難さからみる今後の展望」2019年10月28日,No.1517)でも紹介したが,日本貿易振興機構(ジェトロ)の2018年「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」におけるインドネシアでの経営上の問題点として,日系企業が最上位にあげているのが,従業員の賃金上昇である。2017年,2018年と2年連続で断トツのトップである。

 その背景には,人件費の高騰がある。

 三菱UFJ銀行ジャカルタ支店の調べでは,ジャカルタ首都特別区の2019年の法定最低賃金は,前年比8.03%増の394万973ルピアとなった。ジャカルタ近隣のブカシ県は,さらに高く414万6,126ルピアとなっている(注2)。

 インドネシア政府による具体的なアクションが行われたのが2020年2月である。インドネシア政府は2020年2月12日,労働法令の改正案を含む「雇用創出オムニバス法案」を国会に提出した。同法案は,企業の投資拡大による雇用創出を企図しており,投資許認可手続きの改正,労働法の改正などが含まれることから,投資環境改善の目玉となるかが注目される。

 ジェトロが入手した雇用創出オムニバス法案の原文,および関連する政府発表資料によると,同法案は全11分野,79の既存法令について改正する内容になっている。その中でも労働法の改正については,最低賃金や退職金,解雇,失業保険,就業時間,アウトソーシング,外国人労働者などを主な項目とし,以下のような点の改正を規定している。

 最低賃金の上昇率については,現行の「国の経済成長率とインフレ率の和」を改め,オムニバス法案では「州別経済成長率」に基づくとした。近年,8%超の最低賃金上昇率が続いてきたが,同法案が可決されれば,ジャカルタや西ジャワ州の最低賃金上昇率は5%台まで下がることが期待される。

 解雇については,同法案では,雇用者側の解雇可能事由が追加された。例えば,従業員が5日連続で無断欠勤した場合や,雇用契約や会社規則に違反した場合,会社に返済義務のある債務を滞納している場合,などを解雇事由とした。ただし,解雇手続きは従来どおり,原則として産業関係紛争解決機関の採決を経る必要がある。

 退職金については,現行法令(労働法2003年第13号)において,退職手当や功労金,損失保証金,送別金を定めているが,同法案では,このうち損失保証金を法令の対象外として雇用契約で定めるとした。さらに,重大な違反などにより解雇された従業員に対する送別金については条文を撤廃した。

 他方,オムニバス法案では,新たに失業保険の導入を規定した。これにより,解雇された従業員は,手当金や職業訓練,就職案内などの社会保障を受けられる見込みである。

 地元報道によると,同法案は2020年5月中の成立を目標としている(注3)。

 これらの外資の要望に沿った形での法改正を行う背景には,労働組合などの反発はあるが,外資をいかに呼び込むかが経済成長率で目標としている6%成長のためには不可欠であるという認識にあるものである。現在インドネシアは年5%成長をしているが,毎年200万人といわれる新規就業者の雇用を確保するには6%成長を掲げているためである。

 今後に注目していきたい。

[注]
  • (1)「日本経済新聞」2020年2月26日。
  • (2)三菱UFJ銀行ジャカルタ支店アジア・オセアニア営業部,国際業務部『インドネシアの投資環境及び日系企業の動向』2019年8月。
  • (3)ジェトロ「ビジネス短信」2020年02月26日,https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/02/4be2309d881e0823.html,2020年4月24日最終アクセス
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1716.html)

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