世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
進むか「中欧班列」の利用拡大:今後の「中欧班列(成渝)」の運用展開に注目
((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)
2020.04.27
年初来の中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大により,中国経済はその深刻な打撃で本年1〜3月の実質GDP成長率が,一気にマイナスへと大きく落ち込んだ(因みに,2019年のそれは6.1%)。1992年に四半期ごとの成長率が公表され始めてから初めての出来事であった。こうした景気の急減速の下で,中国政府の推進する広域経済圏構想“一帯一路”のうち,最もシンボル的事業の中心である「中欧班列」が,昨今の世界的な厳しいコロナ禍にもかかわらず,引き続きなお増勢を維持している点は特筆される。
この陸路輸送の根幹を成している中国~欧州間の国際鉄道コンテナ貨物列車の定期運行こそ,上記の「中欧班列」にほかならない。それは,「海より早く,空よりも安い」というキャッチフレーズの基に,第三の輸送モードとして近年来,次第に脚光を浴びつつ今日に至っている。
2011年3月に当初は“渝新欧”としてユーラシア・ランドブリッジの新規鉄道路線が,重慶~モスクワ~独デュイスブルク間(全長は約1万1千km)で運行開始されて以来,既に丸9年が経過した。例えば,2019年における「中欧班列」の全体実績を見ると,年間の運行便数は前年比29%増の8,225便を数え,コンテナ貨物輸送量は同34%増の72.5万TEUにまで増大した。その結果,同年末現在,累計では遂に総取扱数が2万便の大台を突破することとなった。今や中国内の60余りの都市と欧州の計15カ国,50余りの都市を相互に連結するなど,量的にはまだ少ないものの,国際貨物列車の輸送能力が格段に強化されてきたことは間違いない。
さらにその基盤を踏まえ,本年に入っても逆境下で直近の伸び率が低下したとはいえ,安定した増加傾向をみせている。実際,同第1四半期の運行便数は1,941便(前年同期比15%増)で,コンテナ貨物輸送量は17.4万TEU(同18%増)に上った。ただ,新型コロナの感染がようやく落ち着いた3月時点では,早くも単月の欧州向け往行便数としては記録的な増加を達成したのであった。とりわけ,欧米をはじめ沿線各国からの外需不振により重要物資の輸出入が滞る中にあって,「中欧班列」が貨物輸送面で一定の下支え的な役割を果たした事実は注目に値すると言えよう。
このように「中欧班列」の運用が堅調に推移した背景に関しては,次の点が挙げられる。すなわち,新型コロナ対策でヒトのみならずモノの移動が厳格な制限を受けたことから,中国発着のグローバル・サプライチェーンが寸断された。そのため,海運業界では船便の運休が相次いだほか,航空業界でも旅客便の欠航・減便などに伴い,それが海上や航空輸送の荷動き減につながることになった。そこで,通常の鉄道便などと比べ人的接触が少なく済み感染リスクも相対的に小さい「中欧班列」が,活用しやすい代替の輸送手段として改めて見直され,利用されるケースが目立ったというのが主な要因である。
加えて,そうした状況の中で更に追い風となったのが,中国政府による政策的後押しである。本年2月末,中国の税関総署によって「中欧班列」の発展促進に向けた10項目の措置が発表された。これは,“一帯一路”沿線諸国との経済・貿易往来を一段と深めるために打ち出されたもので,今後の発展に大きく寄与するとみられる。具体的に主な内容を示すと,①「中欧班列」のハブ拠点建設の強化,②複合一貫輸送の業務推進―新たな各種鉄海聯運ルートの構築,③「中欧班列」を利用した輸入拡大支援,④「中欧班列」の業務開拓(越境EC,エクスプレス,国際郵便など)と同輸送業務の展開支援,などが含まれている。
今後においては,「中欧班列」サービスの利用拡大を図っていく上で発展のカギを握るのは,何と言っても従前より指摘されてきた次の2つの課題に対する改善如何である。つまり,1つは中央・地方政府の指示に基づく“補助金依存症”からの脱却であり,もう1つは大量輸送の可能な海運と比べ大きく見劣りする輸送力の大幅な引き上げ。そのような意味からも,現在コンテナ貨物輸送量の都市別全国1,2位を誇る中国西部の成都と重慶がタッグを組み,本年3月末に統一標識の新生「中欧班列(成渝)」をスタートさせたことは注目される。両都市の合算運行総計によれば,これまでに全国の約半分を占める1万便(約88万TEU)を超過しているという。更なる運営コストの引き下げと集荷能力の向上をめぐり,今後のモデルケースとしてどう運用・展開されていくのか,その動向が気になるところである。
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