世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本を強い国にするには
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.04.27
この資本主義経済社会の活動では,ほっておけば詐欺的行為,違法行為が多く起こり,これでバブルとなり,それがクラシュして国民経済に巨大な被害をもたらす。「インサイダー取引」,「虚偽の情報を流す」,「情報操作」,「空売り」,「価値あるものと言ってジャンクなものを売りつける」,「リスクのあるものを安全なモノと見せかけて売る」,「過度なロビー活動で私腹を肥やす」などなど。日本でも最近「おれおれ詐欺」という「こそ泥」がいる。これが「強欲な売り主」と「騙され易い買主」との間で展開される。このような行為は国民経済に多大の損失をもたらす。最近のものでもサブプライムローン問題で,家を買うお金を持っていない人にお金を貸し付けて家を買わせ,それを債権にして,小さく分割して他の債権と混ぜてカモフラージし「騙されやすい買主」に売りつけた。このバブルがはじけて2008年のリーマンショックになったのだ。今でもアメリカのウオール街は,倒産しそうな企業に少し融資し,その企業を債権化し「高利回り債券」にして売りつけている。利回りが良いということにつられて「騙され易い日本」がこうしたリスクの高い債券(ジャンク債)を一番多く買って持っているようだ。この債権はやがてバブルがはじけて紙切れになる。
アメリカは,1929年の大恐慌での経済の大混乱のなかでこのような詐欺的行為,違法行為があったことを究明し,このような詐欺的行為,違法行為を摘出し,排除するための仕組みを作った。これが「ペコラ委員会レポート」であり,証券規制法の「10b-5」であり,それの実行のための仕組みである「エンフォースメント」である。これは詐欺的行為,違法行為の摘発だけでなく,ある経済行為が社会にたいして価値を創造しているかどうかをも見る。そしてこうした詐欺的行為,違法行為が,騙されて財産を失った者だけではなく,アメリカ国家の経済に多大な損害をもたらしたことが明らかになった。
アメリカでは,こうした詐欺的取引で買い手が損害を受けたとき,「強欲な売り主」からその損害を「差し押さえ請求権」で「騙された買主」に取り戻す仕組みを作っている。「騙した売り主」が詐欺的行為の犯罪で捕まっても,裁判をしている間に買い手を騙して得た金をどこかに隠してしまい,「騙された買主」には金は戻らないことがあり,これが最終的に国家の損失になる。そこでアメリカでは,民事訴訟制度を通じて,犯罪の行為が発覚した時直ちに「強欲な売り主という犯罪者」が奪った金・資産を「インジャンクション」という「差し押さえ請求権」で素早く抑えて,後で「騙された買い主」や,国家に戻し,損害が起こらないようにする。アメリカではその犯罪を戒めるために,その被害額の三倍のものを犯罪者から剥ぎ取るという「三倍返し」の規則もある(日本にはこのような仕組みはない)。
安倍政権はいろいろの政策のスローガンを掲げた。「美しい国になる」,「瑞穂の国の資本主義国家になる」,「北朝鮮に拉致された方を取り戻す」,「デフレ脱却をする」,「これを不退転の覚悟でやり抜く」というスローガンを掲げた。これにより安倍内閣は7年5ヶ月の長期政権になったが,この政権の美辞麗句の並んだスローガンのどれが実現したのであろうか。今や世間では,これは「やるやる詐欺」だと言っている。
安倍政権がやったことは,「移民法改正」,「水道法」,「種子法」,「TPP加盟」,「消費税の増税」という日本国,日本国民にとって悪いことばかりである。しかも「アベノミクス」の結果として,デフレが長く続き,安倍政権は,日本の経済成長をストップさせ,国民を貧困化させてしまった。
今度のコロナウイルス災害に対して,政府は,4月7日に「緊急事態宣言」をし,経済対策として「過去最大のGDPの20%にあたる,世界的に見ても大きな規模の108兆円という経済対策」を発表した。しかしこの「緊急経済対策」の中身を見ると,108兆円のなかには,貸付や,税金・社会保険料の支払いの猶予などが入っており,「真水」(実際に政府が市場に投入する金)は10.6兆円である。それはGDPの2%である。「緊急経済対策として108兆円で,GDPの20%」と言うことは「詐欺的行為」になる。政府は国民を欺いてはならない。
恐らく安倍首相は,詐欺をはたらくつもりはなかったものと思うが,それを具体的にどう実現するかの「実行計画」が無かったか,お粗末なものであったのだろう。あるいはこの「緊急経済対策」で,本当に日本経済がこの危機を脱することができるのかの具体的な検討がなされていないのだろう。安倍首相は,「美しい国」とか「瑞穂の国に資本主義国」,「不退転の覚悟」という「美辞麗句の形容詞」だけを並べたて,自己陶酔していたのかもしれない。
「対策」を確実に実行するには,実現可能な具体的な「実行計画」を作らなければならない。それには,「最終目標」を実現するには何を「準備」しなければならないかを問い,その「準備」をするにはその前に何を解決しなければならないかという「最終目標から逆算していろいろの行動計画」を作ることである。これには,What,When,Why,Where,Howで分析して,こうした「戦略的な実行可能な計画」を立てることである。これは企業が新規事業,新製品,新技術などを開発するときにやっていることである。日本では,かつての「経済企画庁」はその力があり,それをやっていたが,アメリカに言われて経済企画庁を解散してから,その力がなくなった。
先ほど触れたように,アメリカでは「エンフォースメント力」というコンセプトがあり,アメリカ政府の中では「エンフォースメント・セミナー」が催されている。ものごとを確実に実行するためにはどうするのかについて,政府の中のいろいろの人を訓練している。
アメリカは,詐欺的行為や違法行為を摘発し,排除を確実にする仕組みを持っている。湾岸警備隊,州兵,航空会社,鉄道会社,通信企業,証券管理委員会,10b-5組織,セキュリティ企業,銀行などのすべてが連携して,民事訴訟システムを含めて,詐欺的行為,違法行為を摘発・排除するシステムである。この仕組みは近年の外からのいろいろのサイバー攻撃にたいしても闘っている。トランプが中国のファーウエイの通信機器を使わないと言うものこのためである。これがアメリカのエンフォースメント力であり,国力である。
人間は神様ではないので間違いをすることがある。重要なことは,もし政策を間違った場合,それを正直に認め,それを改め,正しい政策でやり直すことである。エンフォースメントにはこれも含まれている。これはビジネスの活動の中でも重要なことである。誤りを認めないで,そのままずるずるやり続けると国は亡びてしまう。安倍政権がそれに気付いてくれることを切に望む。
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