世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1655
世界経済評論IMPACT No.1655

今,EU27は結束力を試されている:英離脱後の財政負担を巡り,仏独が対立

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2020.03.09

 「英国がEU(欧州連合)を離脱すれば,EU27か国は結束できる」「EUは結束力を示さなければならない」。27か国首脳たちは2月20日,英離脱後初の欧州理事会(EU首脳会合)にこのような思いで臨んだに違いない。

 首脳会合の最大の目的は,2021~2027年の7年間のEUの中期予算(多年度財政枠組み:MFF)について,ドイツに次ぐ資金拠出国だった英国のEU離脱で生じた,今後7年間に支払うはずだった750億ユーロの財源不足をどう穴埋めするか,合意することであった。

 シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(いわゆるEU大統領)が提示した各国の拠出額を国民総所得(GNI)比1.074%とする独自案の各国負担を巡って議論が紛糾し,合意できなかった。決裂した最大の理由は,予算規模を抑制し,GNI比1.0%の負担に止めたいドイツやオランダなど北部欧州と,予算規模の縮小に反対のフランスを含む東・南欧が最後まで歩み寄れなかったためだ。

 2日間の会合後の記者会見の場で,フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「英国がいなくなっても,われわれは合意できなかった」といら立ちをあらわにした。また,ドイツのアンゲラ・メルケル首相も「合意するには意見の違いが大き過ぎた」と失望を隠さなかった。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は首脳会合直前の2月12日,欧州議会で,「早期の予算の合意ができなければ,われわれは2021年に,気候変動対策への支出を行うことも,研究開発への支援もできなくなる」と警鐘を鳴らしていた。

 決裂をより深刻にしているのは,仏独枢軸の揺らぎである。このところ,蜜月といわれたマクロン氏とメルケル氏の関係が冷え込みつつあることである。両氏の関係変化は昨年11月,マクロン氏が「NATO(北大西洋条約機構)は脳死状態だ」と英エコノミスト誌の取材で発言し,メルケル氏が「私の見方は,(マクロン氏の)過激な発言とは違う」と強く反発したことで表面化した。NATOの70周年式典で,メルケル氏が「あなた(マクロン氏)が壊したコーヒーカップを,私がひとつひとつ糊で直している。いい加減にしてほしい」と罵ったというのだ(米ニューヨーク・タイムズ紙)。

 二人の政治姿勢の違いもある。マクロン氏の姿勢は独断専行の色彩が濃い。これに対して,メルケル氏は合意形成を重視する政治家である。メルケル氏にすれば,「NATOは脳死状態」と発言したり,経済制裁下にあるロシアとの関係改善を突然唱え,アルバニアや北マケドニアのEU加盟交渉に待ったをかけるマクロン氏のあまりにも不規則で,突飛な言動が,欧州政治をかく乱し,結束や合意を難しくしているとしか見えない。

 これに対して,マクロン氏は自分の提唱したEU改革案へのメルケル氏の反応の鈍さに不満を募らせている。だから,EU改革への取り組みに前のめりの姿勢を強めざるを得ないというのだ。

 2人の内政基盤が盤石ではないことも,仏独の歩み寄りを難しくしている。マクロン氏は2022年5月の大統領選の再選を見定めるが,支持率が30%前半台に下がったままだ。メルケル氏は2021年秋に任期切れで引退が予定され,求心力がさらに低下することが見込まれる。これまで,仏独が対立すれば,英国が調整役を担ってきたが,英離脱後の調整役を担う国が見当たらない。これはあまりにも皮肉な現実ではないか。

 折しも,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がイタリアから欧州全域に拡大しつつある。今後の感染状況次第で,人・モノなどの「EU域内自由移動」が規制される恐れもある。さらなる結束力が試される局面を迎えている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1655.html)

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