世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1639
世界経済評論IMPACT No.1639

新型コロナウィルス感染拡大と国際開発問題

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学 教授)

2020.03.02

 いま世界は,新型コロナウィルス感染についての話題でほぼ占められている。この問題については,大手のマスメディアによってあることないことが洪水のごとく流されている。本コラムでは,国際開発問題に絡めてこの問題から垣間見えることを述べてみたい。

 歴史を繙くとだいぶ昔のことだが,まず思い浮かぶのは,14世紀半ばのヨーロッパにおけるペスト(黒死病)の流行と大航海時代のラテンアメリカにおける天然痘や麻疹などの流行だ。当時,それぞれの地域で人類の大量死をもたらした。それらは言わば,歴史上の決定的岐路となったのだった。しかし今度の新型ウィルスの流行は,やや事情が異なる。昔の病原菌の流行は即時的な死を意味したが,いま流行しているウィルスはそれほど恐ろしいものではない。時間との戦いだが,現代医学の勝利を信じるしかないだろう。

 さて次に,この問題から派生しつつある経済問題に話を移そう。

 まず新型ウィルスは湖北省の武漢に端を発する形で流行し始めたが,そこはまさしく中国の工業生産拠点のひとつであり,いわゆるグローバル・バリューチェーンの中核地域としての役割を担っているところだ。新型ウィルスが流行しはじめるやいなや,そこでは生産活動の停止を余儀なくされ,グローバル・バリューチェーンの機能が大きく損なわれたことになる。そのことひとつを取り上げてみても,世界経済に対して多大なる影響をおよぼすこととなった。具体的には特定の自動車部品の生産がストップしたことを意味する。

 生産側の事情だけではない。消費事情もまさしく様変わりだ。とくに日本や韓国,タイなどの国ぐにでこれまで実現してきたインバウンド効果が,もはや期待できない。マスメディアによって毎日のごとく報道されているように,中国人がこれまで訪れていた観光地では閑古鳥が鳴いている。これらの国ぐにでは,大幅な消費の落ち込みが予想される。

 こうした事情から言えることは,中国での工業生産が大きく停滞することに端を発する形で派生する一次産品に対する世界的な需要の落ち込みが懸念されることだ。とくにラテンアメリカやアフリカに対するそれは,測り知れないものがあろう。インバウンド効果ということでは,日本と韓国における経済的影響は深刻である。このような事情については,誰もが思い当たるところであろう。

 中国の生産と消費が世界経済に及ぼす影響はとてつもなく大きい。新型ウィルス感染騒ぎから,このことがまず垣間見えるのであって,それは言い換えるならば,中国はすでに世界経済において中心国になっているということなのだ。

 ここでもう少し視野を広げて世界における中国のプレゼンスを考えてみよう。現在の国際関係において中国は,政治面では国連安全保障理事国の一画を占め,軍事面では(微妙な問題を含むが)核保有国であり,そして経済面ではアメリカに次ぐ世界第二位のGDPである。マクロ数値的にはすでに日本は中国に追い抜かれている。ただし一人当たりGDPについては,そこまでは行っていない。少なくとも中国が世界的に評価されているのは,貧困削減をかなりのレヴェルで実現したことだ。つまり7億2000万人分の貧困を削減したといわれる。これが大きな経済功績であることは間違いない。開発戦略面では,開放経済型工業化の導入によって効果を上げた。これは経済特区を創設して,外国資本を誘致するやり方であり,中国に豊富に賦存する労働力との合理的な結合によって高度な経済成長を実現したのだった。そしてそれは,グローバル・バリューチェーンの中核部分をこの国が占めることを含意するものであった。それゆえ幾多の国が直接投資の形でこの国に進出しており,国際的相互依存関係が進行したため,国際開発面において高く評価されている。中国の国内需要面をみると,多数の中流階層が形成されたことから自動車の販売台数はすでにアメリカを抜いて世界第一位となり,年に3000万台弱が販売されている。

 ところがだ。新型コロナウィルス感染問題が発生したことから,中国は不意に世界的信用を失おうとしているように見える。どのような形で終息するか,俄かには言えないものの,中国は依然として開発途上国としての色彩が濃いということが見てとれたのだった。もとより中国は先進国というよりもむしろ途上国としての性格が強いと言えるが,政治経済面にといては,世界の中心国としてふるまおうとしていることも確かなのだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1639.html)

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