世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1581

紙の教科書は残るか

吉原英樹

(神戸大学 教授)

2019.12.23

紙の教科書から電子書籍へのトレンド

 大学のビジネススクールで,授業の前に提出してもらう課題レポートを読んだが,学生が教科書を読んだか否かの判断に迷った。読んでいるようであるが,きちんとは読んでいない。授業中にその学生にたずねると,「読んできました」という。その学生は,まじめで,ウソをつくとは思われない。しかし,レポートを読む限りでは,教科書を読んでいるとは思いにくい。このことで学生とやりとりするうちに,学生とわたくしとのあいだに,教科書のことで相違のあることがわかった。学生は,電子書籍を読んできた。わたくしは,本の教科書を考えていた。

 この経験から,わたくしは,教科書には電子書籍は不適切ではないかと思うようになった。教科書には,本,つまり紙の教科書のほうがよい。

 雑誌,新聞を電車のなかで読む。このためには,電子書籍が適している。しかし,教科書を机において,静かなところで,精読,熟読するためには,本(紙媒体)のほうがよい。

 わたくしは電子書籍を使わないので,若手の先生にたずねてみた。5名から意見・考えを得ることができた。なかのひとりは,同僚の教員などの意見を聞いてくれた。教科書など教材には電子書籍はよくないとの意見がほとんどだった。わたくしの意見・考えは特殊な少数派のものでないことがわかった。

 世代の差が影響しているかもしれない。わたくしは後期高齢者であるが,すこし若い中高年の先生の多くも,紙の本でないと落ち着かないようだ。他方,若手の先生や学生には,スマホ,タブレット,パソコンの画面のほうが読みやすいひとが少なくないようだ。

 世の中のトレンドは,ペーパーレス化,つまり,本から電子書籍への流れである。アマゾンの母国の米国をはじめ,世界中で書店が減少している。図書館が情報館(学術情報館,兵庫県立大学)に変化している。

厚くて重い紙の教科書を読んで頭をきたえてほしい

 1日に1時間本を読む学生は多くない。本を読む場所と時間も,従来とはちがうようだ。いまの学生の多くは,電車のなかで,駅のベンチで,喫茶店で,本を読む。このためには,電子書籍のほうが適しているかもしれない。

 紙の教科書について,学生は,軽薄(ページの少ない,内容が軽い)なものを好む。ページ数がすくない。内容が軽い。1からの国際経営,ゼロからのマーケティング(仮の書名)。このような教科書で,頭をきたえることができるのだろうかと,不安になる。

 米国の大学のキャンパスでは学生がキャリーバッグに教科書を入れて移動している(いた)。教科書が厚く,重いので,カバンに入れて持ち運びにくいからである。これは,昔のことになってしまったのか。

 厚く,重い教科書というと,伊丹敬之・加護野忠男『ゼミナール経営学入門』第3版,604ページ,約850グラム(日本経済新聞社,2003年)が代表例か。これは,厚く,重いにもかかわらず,ロングセラーであり,めずらしい例といえよう。若手の先生によると,出版社,編集者から軽薄な教科書をもとめられるらしい。

 わたくしは,教科書と読書については,守旧派である。紙の教科書は,生き残ってほしい。学生は,机の上に,紙の本をおいて,静かなところで,熟読・精読して,頭をきたえてほしい。

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