世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1527

5つのインド太平洋構想

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2019.11.04

一帯一路星座説インド太平洋星座説

 一帯一路に関する見方は様々だが,最も有名なのは高原明生東大教授の「一帯一路星座説」だろう(注1)。「星は存在するが星座は観念として存在するだけ。一つひとつのプロジェクトは存在するが,一帯一路は観念であり,一帯一路が全体としてどんな星座かは誰にもわからない」という主旨だ(注2)。

 面白いことに,一帯一路に対抗する構想であるインド太平洋構想も星座に例えられている。インド太平洋星座説の提唱者はトランプ大統領である。トランプ大統領は,2017年ベトナムのダナンでのAPEC・CEOサミットでの演説でインド太平洋構想を提唱したが,そのときに次のように述べている(注3)。「この地域(インド太平洋)は諸国家の美しい星座として現れた。各国は輝く星であり,他のどの国の衛星でもない」。トランプ演説は,インド太平洋地域の成長する国々を星にたとえ,インド太平洋地域を星座と呼んでおり,高原教授の主旨とは意味合いが異なっている。

 一帯一路に多様な見方があるのは極めて壮大な構想であり,全体像を把握するのが難しいためだ。同様にインド太平洋構想も理念先行といわれ全体像が把握しにくい。加えて,日本,米国,豪州,インド,ASEANの5つの国・地域がインド太平洋構想を提唱し,内容も一様ではないからだ(注4)。

5つの構想:何が違うのか

 まず,名称が異なっている。日本と米国は「自由で開かれたインド太平洋」で同じだが,豪州は「安定し繁栄するインド太平洋」,インドは「自由で開かれ包摂的なインド太平洋」,ASEANは「インド太平洋についての見解」である(注5)。対象地域も違う。日本とインドは米国西海岸からアフリカまでだが,米国は米国西海岸からインド西海岸までである。日本は,第6回アフリカ開発会議で安倍総理が提唱したことに象徴されるようにアフリカの結合を重視している。

 原則は,航行の自由,紛争の平和的解決,質の高いインフラ建設,自由な市場と経済統合などは共通しているが,豪州,インド,ASEANは包摂(inclusive)を加えている。包摂は,特定の国を排除しないことを意味しており,具体的には中国を指している。日米の「自由で開かれたインド太平洋」は,中国へのけん制あるいは対抗の色合いが強かったが,豪州,インド,ASEANのインド太平洋構想は中国へのけん制色が薄まっている。

 協力分野を具体的に示しているのは,日本,米国,ASEANである。インフラ協力,海洋協力,経済統合など共通している分野が多いが,日本はインフラ(質の高いインフラ)建設に重点を置き,米国は安全保障色が強い。ASEANはASEAN共同体2025などASEANの経済社会開発を含めている。経済統合は共通の協力分野だが,具体的なFTAとして日本はTPP11,米国は日米貿易協定,インドは(バランスのとれた)RCEP,ASEANはRCEPをあげている。

 インド太平洋構想を最初に提唱したのは日本(2016年)であり,その後米国(2017年),豪州(2017年),インド(2018年)と続き,最後がASEAN(2019年)である。時代を追うに従い,内容も変化している。とくに,インドとASEANの構想では,包摂に加えて,小国の権利の保護と平等の重視,経済社会開発の重視,対立と分断の拒絶,ASEAN中心性などが強調されている。

 ASEANは太平洋とインド洋の中核に位置しており,インドはアジアからアフリカへの経済動脈の中核に位置している。インド太平洋構想の推進では,この2カ国・地域の意向は無視できない。包摂,ASEAN中心性,開発重視と中国海洋進出けん制のバランスをどうとりながら構想を推進するのかが課題となるだろう。

[注]
  • (1)高原(2018)。
  • (2)一帯一路は対外インフラ建設中心の国際開発協力構想である。構想という点では「観念」であるが,第13次5か年計画に組み入れられ,大国化した中国が国際社会の中で自らをどう位置付け,どのような国になろうとしているのか,発展のあり方を象徴的に示す構想となっている(平川2019)。従って,一帯一路を沿線国のプロジェクトを含め,一つの構想として多角的・総合的に研究する必要がある。
  • (3)The White House(2017)
  • (4)日本,米国,豪州,インドのインド太平洋構想の詳細については,石川(2019a)を参照。ASEANのインド太平洋構想については,石川(2019b)を参照。
  • (5)英語では,日本は Free and Open Indo-Pacific Initiative(2018年にStrategy をInitiativeに変更),米国は Advancing Free and Open Indo-Pacific である。
[参考文献]
  • 石川幸一(2019a)「自由で開かれたインド太平洋構想」,平川均他『一帯一路の政治経済学-中国は新たなフロンティアを創出するか-』文眞堂,所収。
  • 石川幸一(2019b)「ASEANのインド太平洋構想」亜細亜大学アジア研究所所報176号,2019年10月。https://www.asia-u.ac.jp/laboratory/
  • 高原明生(2018)「一帯一路は“星座”,過度な期待は禁物」,『週刊東洋経済』2018年1月27日号。
  • 平川均(2019)「「一帯一路構想」とアジア経済-新たなフロンティアとその課題」,平川均他『一帯一路の政治経済学-中国は新たなフロンティアを創出するか-』文眞堂,所収。
  • The White House, Remarks by President Trump at APEC CEO Summit/Da Nang, Vietnam, November 10, 2017

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