世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1410
世界経済評論IMPACT No.1410

第三回トランプ=金正恩会談と日米安保破棄

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.07.15

 CNNが7月1日に配信した“Trump’s DMZ meeting with Kim kicked diplomacy back into gear”によれば,トランプ氏は米国大統領として初めて北朝鮮に入国。金正恩と3回目の首脳会談を行った。このトランプ氏の行動は,外交専門家の間では批判的意見が多い。このような首脳会談は,そこに至る実務者会議の積み重ねがなければ,良い結果は出ないというのが批判の理由らしい。だが,そのような専門家の今までの方針が行き詰ったため北朝鮮その他の問題が起きたのであり,トランプ氏の個人プレーのお陰で,それが解消されつつある。

 またNewsweekが7月4日に配信した“DONALD TRUMP’S NORTH KOREA VISIT WITH KIM JONG-UN FOLLOWS RONALD REAGAN’S EXAMPLE”では,トランプ大統領の戦略を,レーガンの冷戦終結3段階方式と比較。第一段階は米国経済の活性化。第二段階はそれによる軍備増強。第三が前2段階を踏まえた話し合い。

 このように今回の第三回トランプ=金正恩会談に関しては,リベラル派の方が概して肯定的に思われる。ところが保守派の方が批判的な意見が多い。

 保守系のWSJが7月3日に配信した“For Trump, Kim and Moon, the DMZ Is for Diplomacy but Promises Are Hard to Keep”の中でも,金正恩は韓国の文大統領との4回にわたる首脳会談での約束を守らず,文大統領は役に立たないと見るや彼との直接対話を行わなくなった。このような国を信用できるのか? ―と主張。

 やはり保守系ワシントン・タイムス紙が7月4日に配信した“North Korea and nuclear gamesmanship”の中で,北朝鮮は核やミサイルを広大な山岳地帯に隠していて,金正恩は信用できないと結んでいる。

 この問題は重要である。

 Think Progressが7月4日に配信した“After Trump’s DMZ meeting with Kim, North Korea accuses U.S. of being ‘hell-bent’ on hostilities”の中でNYTの記事を紹介。今後の米朝交渉では北朝鮮の完全な非核化ではなく凍結―北朝鮮を核保有国として認めるのではないかと推測。それに対してボルトン氏がツイッターで即時反論しているが,トランプ氏がしていないことに注意を喚起している。

 どうやら私が『救世主トランプー“世界の終末”は起こるか?』で予測したように,米国としては自国に届くミサイルさえ北朝鮮から取り上げてしまえば,日本に届く核やミサイルは放置するという状況が,次第に現実味を帯びて来ている。これは“日米安保見直し論”とも深く繋がっている。

 6月25日にブルームバーグが,トランプ氏が日米安保は不公平だと私的雑談で述べたと報道した。その前にトランプ氏はツイッターでペルシャ湾のタンカー警備を米国だけが行い,そこから最も恩恵を受けている日本が何もしていないことへの不満を表明している。そして6月29日に大阪で行われた記者会見の中でトランプ氏は“日米安保を破棄する考えはないが,公平なものに見直したい。”ーという趣旨の発言をしている。

 ロイターが7月1日に配信した“Trump’s criticism of U.S.-Japan security pact could be headache for Abe”によれば,国防省等は日本が強力な軍事力を持つことは脅威を増すので“日米安保不公平論”は米軍基地の駐留経費を,より多く日本が負担することで解消されるべきと考えている。

 この考え方は90年代半ばにあった「瓶の蓋」論である。実は今のトランプ氏の主張は,冷戦終結による国際関係の変化により,90年代半ばには出ているべきものだった。だが当時のビル・クリントン政権が「瓶の蓋」論を展開したため,中途半端になってしまった。そして,その枠組みをワシントンの官僚達が,その後も引き継いでしまった。

 だが,そのようなワシントンの既存の官僚達の枠組みが行き詰まり,そこでトランプ氏が出て来ざるを得なかったことは最初に紹介した通りであり,トランプ氏ほど公約を守る大統領は珍しい。そしてトランプ氏は選挙中に日米安保の見直しと日本の核武装それによる北朝鮮抑止等に関して一度でも言及しているのである!

 何れにしても大阪での発言を見てもトランプ氏が,米軍の基地維持経費の日本側負担を増やす以上のことを望んでいることは確かなように思う。

 むしろ米国は日本が他の国から攻撃されて自主防衛を行なっている時に日本防衛のために来援する代わりに,米軍が何時でも中東等への輸送拠点として使えるように日本は基地を常時使えるようにしておく。そして米軍は日本に常時駐留しないという,90年代に囁かれた「常時駐留なき安保」論が復活するかも知れない。こうなれば日本は,どこからか侵略された時に必ず米軍に来援してもらうためにも,米国が攻撃されたら米国のために戦わざるを得ない。

 “米国のために闘う“が,大規模な地上軍を中東その他に派遣することを意味するとは限らない。ペルシャ湾防衛でも良い。南シナ海防衛でも良い。

 繰り返すがトランプ大統領の当選は,ロイターに代表される主流派メディアや,彼らとの結びつきが強い既存の官僚組織の敗北だった。トランプ氏こそが米国の草の根の心を代表しているのかも知れない。

 そう考えるとイラン情勢や第三回米朝会談で露呈されて来たことは,やはり2020年以降に日米安保の大幅な見直しがある可能性が低くない。日本は日本まで届く核ミサイルを持った北朝鮮と,自ら核兵器を持って対峙する事態まで,いずれ覚悟しなければならなくなるのかも知れない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1410.html)

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