世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2752
世界経済評論IMPACT No.2752

米国中間選挙の結果とトランプ再選出馬宣言:不死身の男トランプ

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2022.11.21

 米国中間選挙でトランプ氏の支持する候補者の落選ないし苦戦により,日米共にトランプ引退論が囁かれている。それに対抗するようにトランプは11月15日に再戦出馬を宣言した。トランプ再選はあるのか? 中間選挙のデータを詳細に分析して考えてみよう。

 バイデン政権の経済運営を問題視した有権者は過半数。「民主主義の危機である」という主張に賛同した人は44%,しかし民主主義の危機,と言った「バイデンの主張に一応賛成」といった人々の半数は共和党に投票し,全体の35%が2020年大統領選挙で不正があったと考えている。つまり民主党による選挙不正こそが民主主義の危機だと考えた有権者も半分近くいたのである。

 最も重要な問題は何かと尋ねたところ,全国の有権者の3分の1近くがインフレを挙げ,4分の1強が妊娠中絶であると答えた。そのためか未婚女性の68%が下院中間選挙で民主党を支持したのに対し,共和党を支持したのは31%。しかし若い女性の72%が民主党に投票したものの,女性全体では47%,若い男性では54%。妊娠中絶問題に影響された人以外は女性でも若者でもそんなには民主党に投票していなかった。

 18~24歳の有権者の61%が民主党に投票し,25~29歳の人々の65%は民主党に投票したが,今回の中間選挙では18歳から29歳までの有権者の約27%が投票し,しかしこれは4年前の中間選挙の31%に比べればむしろ少し減っていた。特にこの人々の多くは2020年にバイデンに投票をしたことは確かだが,この2年間の様子を見ていて失望をしてしまって,棄権する可能性が高いのではないか,と言われていた。女性にしても若者にしても10月に入ったくらいからの共和党大勝利,という報道を見て態度を変えたのかもしれない。

 更に全国の無所属有権者の49%が下院の民主党候補を選び,47%が共和党候補を選んだ。これは過去4回の中間選挙からの大きな変化である,と。これを見て頂ければ分かるように過去4回の中間選挙では,無党派層が,大統領を取っている政党と逆の方に大きくスウィングをして,それでそちらの政党の方がたくさんの議席を取る,ということが起きていた。それが今回は起きなかったことは確かなので,その理由としてトランプ前大統領の無党派層に対する支持率と不支持率は30%から66%であるということは小さくないだろう。しかし,これはメディアによるトランプ=右翼という洗脳が原因なのではないか?

 だが多くの選挙結果と矛盾する調査結果がある。黒人とヒスパニックは全体で約15%,彼らの若い世代は約20%も共和党にシフトし,エリート女性も民主党支持から共和党支持にシフトをしている。やはりトランプ政治というのはむしろ貧しい黒人やヒスパニックの生活向上のために非常に役立って,彼らの支持を惹きつけた。またこの2年間のバイデン政権の政策によって,エリートの女性も随分と民主党に失望をして共和党支持に戻ってきた。

 そして共和党は全国で6%も多く民主党よりも得票している。にも関わらず,選挙結果が思わしくなかったのは,共和党を支持している地区で共和党の票が大量に出たのではないか? ヒスパニック系は2012年に29%の共和党員に投票したが,2022年には39%の共和党員に投票。アジア系の共和党員の割合は25%から約40%に増加し,黒人の共和党員の割合は6%から13% に増加。黒人の共和党議員は,ほとんどが白人の地区で選出された。

 更には2年前の大統領選挙と同様の郵送投票等を駆使した何らかの問題があった可能性もあると思う。

 そして実はトランプが支持をした候補者は9割くらい勝っている。そして今回の選挙の結果を受けて,2024年の共和党大統領候補としてトランプより期待が出来るのではないか,と考えられているフロリダ州のデサンティス州知事の支持した候補は4割くらいしか勝っていない。そして世論調査によっては未だにトランプはデサンティスの倍近い支持を共和党内で受けている。

 確かに2020年大統領選挙に大きな不正があった—と主張した候補者が落選したケースは目立つ。しかしトランプは11月15日の再戦出馬演説で,それには触れず,郵送投票等の不正の温床の解消を主張したのみだった。また国会議員の任期制限等,無党派層にアピールできる既成政治への改革も主張した。

 下院で共和党が過半数を取ったため,郵送投票等の色々な投票を巡る疑惑とか,そういうものが起きないような全国的な法律をつくる。上院は民主党の方が多数になったが民主党上院議員の中にも良心的な中間的な人はいる。あるいは無党派層向けの政策の主張に力を入れる。そのようにすれば先ほどから見てきた通り,トランプという人は実は未だ強く支持をされており,更に共和党下院の候補者は,南部で一般投票の58%を獲得し,中西部で53%を獲得。2つの地域を合わせると,538の選挙人票のうち過半数の298を占めていたことを考えると,トランプ復活の可能性は高いように思われる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2752.html)

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吉川圭一

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