世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3628
世界経済評論IMPACT No.3628

トランプの勝利は,民衆の勝利だ!

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2024.11.25

 11月5日の米国大統領選挙で,トランプ氏が圧勝した。その意味に関して主としてNBCとCNNの出口調査を中心に考えてみたい。

 まず人種と男女別の投票では,トランプ氏は白人男性の6割,白人女性の55%の支持を得ている。そこまでは理解できる。しかしヒスパニック系女性の38%そして男性の何と55%から支持されている。黒人でも女性7%,男性21%。共和党候補として異例の支持を得ている。

 トランプ氏は黒人女性以外の全ての男女別人種で4年前より改善していて,特にヒスパニック男性では,4年前はバイデンに23%負けていたのが,今年はハリスに12%勝っている。

 年齢別で見ると,20代(有権者の14%)は43%であったものの,30代から65歳までの働き盛りの人々(有権者の約6割)の間では過半数を占めている。しかし65歳上になると双方約50%で拮抗した。

 4年前の実績から比較すると,トランプは65歳以上で5%支持を失ったが,働き盛り世代では5〜10%改善。20代の間では13%改善している。

 これは米国社会の高齢化が背景にあるものと思われる。いま米国では,20代が15%なのに対し,65歳以上が20%。このままでは9年後には年金財政が破綻すると言われている。しかし今年の選挙で両候補とも年金改革(それは65歳以上の人々に不利になる可能性が高い)に関し何も提言していない。

 人口の多い65歳以上の人々を敵に回すのが怖かったのだろう。この年代の人々の人口的影響力は増加しつつある。そのため人口構成を前提に考えると20代の人々は少ない割合でしか投票していない(というか65歳以上の割合が多い)。

 それにも関わらず20代のトランプ支持が増えているのは,同世代の60%がポッドキャストから情報を入手している影響があると言われている。これは全年齢平均でも47%。最も人気のあるジョー・ローガンのポッドキャストの視聴者数は,ニューヨーク・タイムスの購読者の40倍である。ポッドキャストだけではなく他のSNS等も同様の傾向にあるのではないか?

 学歴で見ても有権者の約4割を占める大卒者のうち,約6割がハリスを支持したのに対し,有権者の6割を占める非大卒者の約55%がトランプ支持で,この傾向は白人女性以外の全ての人種で拡大している。

 年収でも3万ドル以下(12%)と10万ドル以上(約4割)の過半数がハリスを支持したのに対し,3万ドルから10万ドル(約半数:米国では,これが中低所得者)では過半数がトランプを支持している。

 居住地でも郊外と農村部(合わせて約7割)の約55%でトランプが勝ち,都市部(約3割)でハリスが6割の勝利を収めたものの,トランプは郊外と農村で4年前より5〜15%改善し,都市部でも8年前に比べれば5%改善している。これはヒスパニック系労働者の支持向上が原因と思われる。

 そして7割が国の経済が悪いと答え,その中の7割がトランプを支持している。半分が4年前より生活が悪化していると答え,その約8割がトランプを支持している。

 そして初めて投票する人(8%)の約55%がトランプを支持。4年前はバイデンが32%勝っていたのが,今年はトランプが13%勝っている。

 妊娠中絶反対派(約3分の1)でトランプが約9割の勝利。完全に合法(約3分の1)の約9割でハリスが勝利。しかし部分的に合法(約3分の1)では半数同士で拮抗している。

 そして最重要課題では「民主主義を守る」(34%)が2位の「経済」(32%)を抑えて1位だった。この中でハリスが80%支持されていたことは言うまでもない。しかしハリスに投票した人の6割が,この解答が他の回答を抑えて1位。だがトランプに投票した人の中でも,この回答が35%で「経済」その他を抑えて1位になっている。

 事前の予測調査でトランプとハリスは接戦だった筈が,7つの激戦州全てでトランプが2%近い差で勝利を収め,しかもバージニアやニュージャージーといった民主党が強い州で,今までは15%くらい差を付けられていたのが,今年は5%差まで迫っている。そのため一般投票でも,トランプ7500万票,ハリス7300万票で,冷戦終結以来,911テロ事件の余波があった2004年を例外にすると,約40年ぶりに共和党が勝っている。

 やはり「隠れトランプ」はいたのである。米国世論調査専門家の間でも,共和党支持者は民主党支持者より16%も世論調査への回答を拒否していると言われている。

 先に述べた若者のトランプ支持上昇の問題にも繋がるが,アメリカでは70%もの人がメディアを信用していない。15年間でケーブルテレビと新聞は40%も解約されている。

 それだけメディア,さらにはトランプ氏が「ディープ・ステート(闇の政府)」として攻撃する高学歴エリートである連邦政府の高級官僚のような人々が民衆の反感を買ってしまったのである。それは今まで述べた人種,年齢,学歴,年収,居住地,経済への評価等からして明らかだろう。不利な立場の人々ほどトランプ氏を支持している。また初めて投票する人や部分的妊娠中絶賛成派の人々の間でトランプ氏の支持が伸びているのも,トランプ氏の方が,むしろ民衆に寄り添う中道政治家であるという印象が,広がっているためだろう。

 これらは民衆から乖離したエリート・メディアの印象操作とは真逆のものである。それはポッドキャストその他のネット・メディアの影響が小さくないのは言うまでもない。

 トランプ氏の勝利は,ネットを通じて真実を知った民衆の勝利だった。それを心から祝福したいと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3628.html)

関連記事

吉川圭一

最新のコラム