世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1407
世界経済評論IMPACT No.1407

「米中貿易戦争」の最中に進展の可能性が大きい日中韓FTA

韓 葵花(千葉大学 特別研究員)

石戸 光(千葉大学バンコクセンター 教授)

2019.07.08

 近年の米国と世界の国々との貿易摩擦の動向として,去年の夏から米国は追加関税を実施し,日本を除いた各国は報復関税で対応してきた。とりわけ米中貿易摩擦は数多くのメディアに「米中貿易戦争」として表現され,度を超えるようにもみえた。米中の首脳会談や通商協議などの努力もあったが,2019年5月13日,トランプ政権は3000億ドルの中国製品(食料品等)に対する関税の10%から25%への引き上げを発表した。去年7月の340億ドル(自動車等),8月の160億ドル(半導体等)の中国製品に対する関税引き上げに続くものであった。中国は600億ドルの米国製品(LNG等)に5%から25%に追加関税を実施すると表明した。米中貿易摩擦は激しくなり,2019年5月14日中国外交部の報道官(耿爽)までも定例会見で初めて「米中貿易戦争」と表現した。

 この間,国際通貨基金(IMF)は米国と中国が互いにすべての物品に25%の追加関税を実施すると,米国の実質国内総生産(GDP)は0.6%,中国のGDPは1.5%,世界全体のGDPは0.2%下がると予測している。中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加入したが,安くて豊富な労働力を強みに「世界の工場」になる。それから高度成長を遂げ,今は世界の工場そして世界の市場となり,世界経済の成長率への寄与度は約30%にまでなっている。

 世界貿易の総額に占める割合は,米国が11.5%,中国が11.1%,日本が3.8%,韓国が1.9%である。米国における貿易の上位4は中国・カナダ・メキシコ・日本で,中国が全体の16.3%を占めている。中国における貿易の上位3カ国は米国・日本・韓国で,米国が全体の14.3%を占め,また日本における貿易の上位3カ国は中国・米国・韓国で,中国が全体の21.7%,米国が15.1%を占め,韓国における貿易の上位3は中国・米国・日本であり,中国が全体の21.3%を占める。すなわち日中韓は互いに主要貿易相手国であり,米国の主要貿易相手国でもある。日中韓は世界貿易に占める割合が高く,特に韓国の輸出依存度は45.9%と,中国の21.0%,日本の14.9%,米国の8.3%と比べても顕著に高く,貿易の重要性が他の国より高い。日中韓三国の域内貿易はますます増加しているが,三国の共通の主要貿易相手国である米国との貿易摩擦は,域内貿易の増加を一層加速する可能性を大きくした。それに伴って,日中韓FTAの重要性と必要性が高まった。

 日中韓FTAは2012年11月に交渉が開始され,2013年3月に第1回交渉会合があった。2019年4月9日から12日まで,東京において第15回交渉会合が開催された。この会合に際し,韓国産業通算資源部は,最近の貿易の保護主義の強化に伴い,日中韓はお互いに柔軟性を発揮する時であると指摘し,RCEPより高い自由化を目指している。交渉のペースはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)およびRCEP(東アジア地域包括的経済連携)と比較してペースが遅めとも言われているが,2019年6月27日にはG20の関連という形であるが,日本と中国の二国間首脳会談も日本で開催され,両国が「多国間主義と自由貿易体制を守」ることも共通認識として示された。

 また2019年5月に日中韓三国協力事務局による日中韓三国協力国際フォーラム(IFTC)が北京で開催されている。中国の外交部は同日の定例会見で,三国の協力の成果が顕著であり,FTA交渉を加速するべきであり,対外に三国は開放の道を断行して継続することを積極的にアピールするとした。また2018年10月には日中第三国市場協力フォーラムが開催され,日中企業の間で52件の協力覚書が署名・交換された。筆者の1人はタイのバンコクで勤務しているが,それら52の協力案件は,中国および日本にとって第三国であり,両国の企業にとって国際貿易・投資の要衝であるタイでのインフラ関連に大きく関わるものである。今後は日中韓という三国にとっても,域内での相互貿易のみならず,タイを含めた第三国における経済・産業上の協力が望ましいことはいうまでもない。

 RCEPより高いレベルの自由化となりうる点が日中韓FTAの持つ重要性である。米国を中心とした保護貿易主義が台頭する中で,日中韓による貿易自由化が三国の経済成長に繋がり,世界経済の牽引力ともなることを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1407.html)

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