世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1378
世界経済評論IMPACT No.1378

メルカリ:設立以来赤字の高株価企業

吉原英樹

(神戸大学 名誉教授)

2019.06.10

 低利益率にもかかわらず高株価というのがアマゾンだ。同社は上場後7年間赤字で,利益が出てからもずっと低利益率で現在に至っている。それでいて,株価は上昇をつづけ,1775ドル(2019年5月31日)と米国の上場企業のなかでトップクラスだ。株式市場は利益を評価するとされているが,同社は株価理論の有力な反証といえる。(吉原『「バカな」と「なるほど」』2014,21−22ページ)

 アマゾンに似た企業が日本にもある。メルカリだ。同社は2013年に設立以来赤字がつづく(日本経済新聞,2019年3月23日)にもかかわらず,株価は3175円(6月3日)である。IPO(新規上場)の初値5000円より低いが,3000円近辺にあり,株式市場での人気は高い。

 アマゾンの低利益率は,意図したものである。利益が多く出そうになると,価格を下げ,投資をふやし,コストを上げて,利益を減らす。スティーブ・ジョブズの失敗をしないというのが,アマゾンの創業者のジェフ・ベゾスの基本姿勢である。アップルがiPhoneをびっくりするほど利益が上がる価格にして競争相手をスマホ市場に引く寄せた愚は避けたい。アマゾンの歴史は値下げの歴史だ。

 メルカリの赤字は,創業者の山田進太郎の意図したものか。競争企業をさけるための赤字か。値下げを繰り返しているか。

 メルカリの事業はフリーマーケット(フリマ)アプリである。国内のフリマアプリ事業は16年に黒字になり,18年6月期の営業利益は74億円になった。若い教員によると,学生にはメルカリの愛好者が多い。遺品整理を目的にメルカリをはじめる高齢者がふえている(日本経済新聞,2019年5月17日)。同社は国内ではチャンピオンである。同社が大きく成長するためには海外市場の開拓が不可欠だ。14年に米国に進出したが,赤字がつづいている。

 米国では,個人間の中古品の売買は古い歴史がある。ガレージセールが普及しており,また,中古品をあつかうグッドウイルは北米に3300店をもつ(日本経済新聞,2019年3月23日)。1971−72年に米国にいた筆者は,中古の自動車をガレージセールで入手し,また,衣服などはグッドウイルでそろえたことを思い出す。メルカリがフリマアプリで世界チャンピオンになるためには米国で成功しなければならない。

 個人が企業から商品を買うネット通販の分野では,アマゾンが世界チャンピオンであり,日本の楽天などを圧倒している。個人間売買の分野において,メルカリは世界チャンピオンになるか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1378.html)

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