世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1356

日本産業の衰退とデフレ

三輪晴治

((株)エアノス・ジャパン 代表取締役)

2019.05.13

雁行の先頭から脱落した日本

 かつて日本は「アジアの雁行型発展」の先頭でリードし,特に日本の半導体産業,家電産業,通信機器産業などは世界を牽引していた。しかしここ30年で,雁行の先頭を飛んでいた日本は群れから外れてしまい,世界の産業地図から日本の姿は消えてしまった。日本政府が大々的に資金を投下して開発促進しようとした「情報大航海プロジェクト」,「アドバンスド・ナノマテリアル」,「第五世代コンピュータ」,「高速通信技術」などのプロジェクトがあるが,ことごとく失敗し,今ではこれらの分野は欧米の企業に牛耳られている。これに懲りて,これ以降日本政府は新しいプロジェクトを取り上げなくなってしまった。今世界で競われている次世代の通信基盤技術の5Gも日本企業の名前は見えない。

 新しいイノベーションの動きとしての「ユニコーン企業」(評価額が10億ドルを超す未上場の新興企業)では,アメリカ:151社,中国:82社,インド:13社,インドネシア:4社と競っているが,日本は1社と埒外にいる。

 2016年の調査で「起業のしやすさのランキング」では189か国中日本は81位。昨年の「中小企業白書」は「企業環境が世界120位という不名誉な結果をどう挽回していくか」を論じているが,策はなさそうだ。日本人の起業マインドも問題である。ある調査で「事業を起こす能力知識経験を持っている」と言う者は13%しかいなく,調査の70か国で日本は最下位であった。日本では新しく起業したいという人が非常に少ない。フランスは12.7%,イギリスは14.6%,アメリカは12.3%以上であるが,日本は5%を割り込んでいる。どうも日本人は事業活動という点でもデフレのために鬱状態になっているのであろう。

デフレという恐ろしい病気

 日本産業の衰退は,平成になって日本経済がデフレに突入してから起こっているようである。折しもゴーン氏が日産に迎えられ,日本人にはできなかった大リストラが断行された。それ以降,それに倣って,ゴーン流のリストラが日本でもあちこちで始まった。リストラは労働者の賃金を押し下げるし,社員のリストラをやるとその企業の大事な技術が失われる。デフレになると製品価格は上げられないので,新しい生産性向上設備投資はできないし,コストカットが中心となる。経営も自己資本利益率で動くようになり,産業での技術・商品の大きなイノベーション投資は全く考えられなくなった。企業経営を誰がやっても,デフレの環境ではなかなかうまくいかない。

 この失われた30年におけるこうした日本産業の衰退の原因について,多くの評論家は,デジタル世界に乗り移れなかった日本経営者の経営力のなさ,経営戦略の誤りであると言っている。確かにこの30年の日本企業の経営者の劣化はあったが,それでこの問題を片づけてしまうことはできない。

 この30年は,日本経済全体が「デフレ」という病気にかかったのであり,すべてのものの値段が下がり,お金の価値が上がるデフレでは,投資をしない方がよく,金を貯めこむことしかやれなくなり,新しい技術開発などする気は起らない。社員も,リストラが起こり,実質賃金が下がる続ける中ではリスクのある技術の開発に挑戦するものは誰もいなくなる。こうした中で日本産業はどんどん競争力を失っていった。このようなデフレ経済環境で企業を経営することは大変困難なものであったことを理解しなければならない。

 デフレ下の経済の右肩下がりでは,企業も倒産しないように投資はしないで,コストを下げ総てを節約するという経営になってきた。労働者の賃金が下がるので,需要としての内需が縮小し,商品はますます売れなくなる。デフレが続いているときは,売上を伸ばす見通しが立たない。売り上げ増大の見通しがない場合は新しい投資はできない。個人もデフレで先行きが不安だと金は使わない。こうした企業や個人の動きがますます経済をデフレにする。このデフレがこれからの令和の時代にも続くならば,日本産業の再発展は望めない。

デフレを脱却する道

 こう見てくると,日本産業の発展のためにも,このデフレをストップさせなくてはならない。日銀の黒田総裁は異次元の金融緩和をすればすぐデフレは消えると宣言して金融緩和をしたが,5年たってもデフレは消えないし,GDPが伸びない。金を借りるものがいないのである。内需を拡大しなければ,黒田総裁がいくら金融緩和をしてもその金はGDP拡大に繋がらない。餌を付けないで釣りをしているか,自動車のキーを差し込まないでアクセルを踏んでいるようなものである。日本政府の経済政策の誤りである。

 そうではなく,「インフレ2%になるまで異次元の財政投資」をすることである。言うまでもなく「異次元の金融緩和」ではない。幸か不幸か日本の国土のインフラは老朽化しており,自然災害に極めて弱い。これを財政投資で刷新,強化する必要があり,これをすれば自然災害への対策にもなり,経済の発展に大いに寄与する。同時にこれで国の科学技術予算を大幅に引き上げることである。こうすれば財政投資の乗数効果も高くなる。

 これをやれば必ず日本はデフレから脱却できる。デフレから脱却すれば産業は再び活性化し,イノベーションも起こる。そうすれば産業界も賃金を上げることができ,そうすると内需はますます拡大する。国力もついてくる。

 日本ではこの30年間内需が大きくない時でも財政投資をしなかった。アメリカに言われ政府の一部が「緊縮財政主義」でそれを阻んだからである。しかも国の赤字削減と言って,消費税を上げたり,じわじわと税金を上げて,デフレを起こすような政策をとって,産業と国民を苦しめてきた。つまり日本をデフレにしたのは政府の政策の誤りであり,その責任は重い。

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