世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1344

「平成時代」を悩ませた,2つの「構造課題」をめぐって

平田 潤

(桜美林大学 教授)

2019.04.22

 「平成」が終わり新たに「令和」を迎える中で,あらためて約30年間の「平成時代」を回顧・総括する特集が多くなされている。そこで本稿では,平成時代を通じ,①問題・課題が顕在化,昂進し,②改善を支援する政策・施策が実施され,或は指針やガイドラインなどが設けられ,③(官民あげて)様々な努力が続けられてきたものの,④これまでのところ(「平成時代」)では,思うように効果・成果が得られていないと見られる,2つの「構造課題」にアプローチしたい。

 両者は全くジャンルが異なるとはいえ,日本国民/社会にとって,その将来を展望し未来を築く上ではもちろん,危機管理の視点からも長期戦略的に,かつ粘り強く取り組むべき課題であろう。

 1つめの課題は,誰もが日本の「構造課題」として認め,納得する「少子化問題(これに起因する人口・社会問題を含む)を筆頭とした「ヒューマン・キャピタル・クライシス」である。

 そもそも少子化の原因としては様々な「有力仮説」が存在する。そして日本の少子化については「人口学的要因」として,A.男女の未・非婚化,B.夫婦の晩産化が指摘され,その社会・経済的背景として,C.女性の価値観の変化,D.女性が仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れ,,E.子育てに対する負担感の増大,に加え,F.「平成時代」長期化した経済的不安(失われた20年)が指摘されている。「少子化問題」は先進諸国にほぼ共通する難題ではあるが,合計特殊出生率の水準が比較的高い先進国もある(米国・フランス・スウェーデン)。もっともこれらの国の場合には,独自の要因(移民社会の伝統や,手厚い支援策など)が存在し,それは同時に各国の「コスト」として負担されている,とみるべきであろう。一方で個人・家族に端を発し,社会・経済にも重大な「負のベクトル」を与える「ヒューマン・キャピタル・クライシス」は,実は「少子化問題」に留まらない。目下,日本での「虐待(ニグレクトを含む)」「DV」「いじめ」「ひきこもり〔社会的ひきこもりを含む〕」「各種ハラスメント」については,諸統計が示すように,深刻な水準に達している。平成も終わり近くになり(過労死問題や,ブラック企業の弊害への認識が高まったことにより),ようやく本格的な「働き方改革」「ワークライフバランス」,少子化への総合的な施策として「手厚い出産/子育て/教育支援」の政策が推進され始めた。また「いじめ」や「虐待」など日本全体の(ヒューマン・キャピタルを著しく毀損する)問題として,その取組みが全国的規模で求められつつあるが,その成果は「令和」時代に期待されよう。

 2つめの課題は,(「構造課題」として採りあげることに対しおそらく異論が多いであろうが)バブル経済崩壊以降再生/復興が期待されるも,「平成時代」を通じて改善がままならなかった,「金融リテラシーの活性化」と,(パラレルな)「家計部門金融資産(運用効率)の停滞」である。より具体的に言えば(「平成時代」を通じ,概ね継続したゼロ金利⇒量的緩和⇒異次元的金融緩和という「超低金利・金融抑圧政策」の環境下で)「金融リテラシーの着実な向上・発展を通じ,家計金融資産の堅調な拡大とその有効活用」を図ることに成功していない,ということであろう。金利が果たすべき,「価格」形成機能がマヒするなかで,マネーの量的拡大が図られたが,家計の金融資産増大への寄与については乏しかったと言わざるを得ない。

 一方で「平成時代」の金融詐欺は,今なお形を変えつつ発生する「振り込め・オレオレ・なりすまし」詐欺が,主に高齢者の「貯蓄」を詐取する形態として頻発した。日本の家計金融資産は,現金・預金のシェアが約50%と非常に高い。バブルが崩壊し始めた1990年3月末現在(家計金融資産計982兆円)では現預金は46%,有価証券30%,保険・投信他24%の構成であった。平成末期の2016年末では,合計1800兆円の内訳で現預金が937兆円(52%),有価証券(16%)と,現預金中心の運用はむしろ強まっている。一方(よく対比されるが)米国の家計金融資産では,1989年末で15.4兆ドル(現預金20%,有価証券28%,)であったのが,2016年末で75.5兆$と5倍近くに増加している。構成では,現預金14%に対し,有価証券・投資信託の比率が高まっている。注目すべきは家計資産の運用効率の際立った差であろう。もちろん米国には,所得における極端な不平等・格差が存在するにしても,米国も同期間,常時経済が順風満帆であったわけではなく,リーマンショックという(100年に一度ともいわれる]深刻な金融危機のダメージを受けており,そこから顕著な回復を達成し得ている。日本の場合は「安全資産」中心の運用(しかも流動性も高い)で,確かに経済ショックに対するヘッジ効果は高い。だからといって,日本の家計部門の資産運用効率が,長期にわたり,先進国比較で非常に低い水準に留まったままでよいわけではない。

 この問題については,

  • a.長期的に資産を増大させていく,賢い「投資」マインドが家計に育成されてきていない。その結果リスクマネーの循環が不全で,日本の市場(株式市場やベンチャー市場)における日本の投資家の影が薄い[金融リテラシーの問題]-家計側(金融教育)の問題。
  • b.家計のリスク回避傾向が強いなかで,金融商品や金融サービスに必要なイノベーションや商品開発が十分に行われてきておらず,魅力ある商品に乏しい(とくに米国との差が著しいのは,「投資信託」)-金融機関側の問題。
  • c.預貯金に傾斜してきたために,(平成時代を通じ)成長を遂げてきた世界の他地域の資産保有や,国・地域・ジャンル・銘柄・時間の分散が少なく,リスク・リターンのバランスの取れたポートフォリオが十分に構築されていない[金融リテラシ-の問題]。
  • d.一方でFXや仮想通貨,その他不透明度が高い投資商品等により,投機性が高い(つまり短期的にハイリターンを狙う)金融商品に資金が投入され,トラブルや投資詐欺が頻発している。
  • e.超低金利が続く中,家計の資産形成を積極的に支援する施策が乏しかった-政策サイドの問題

などが,指摘されている。

 そこで官民あげて「貯蓄から投資へ」を推進すると共に,金融教育による「金融リテラシー」の醸成が一段とクローズアップされてきた。「金融リテラシー」とは「金融に関する知識や情報を正しく理解し,自らが主体的に判断することができる能力」(日本証券業協会)と定義される。

 金融庁は2013年に,「最低限身に付けるべき金融リテラシー」として4分野・15項目を掲げ,金融経済教育推進会議では,年齢層別の「金融リテラシーマップ」を作成している。

 さて2つの「構造課題」に共通する,問題の困難さは,a.両課題の背景・根源について,複数の要因(歴史的・伝統的〔経路依存〕・社会的・経済的)が複雑にからみあって解決方法が単純化できないこと,b.いずれも日本国民が直接・間接的に関わり,判断して,選択・決断した結果〔とくに2の課題は自己責任論が必ずつきまとう〕だからである。

 2つの「構造課題」については,背景・根源を踏まえた必要で十分な戦略と,(とくに現場への)きめ細かい支援策や教育,地道な努力を続けることで,やっと成果があがるものであろう。

 目に見える成果を急ぐあまりに,先走った数値目標の設定や,現場を軽視した拙速な施策の強行/実施,法案・行政指導等による画一的な規制・強制に依存することは,極力避けるべきである。

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平田 潤

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