世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本で市場主義管理の人気上昇
(神戸大学 教授)
2019.01.21
日本で,市場主義管理の人気が上昇している。
拙著『中国企業の市場主義管理―ハイアール』(2006,白桃書房)が出版されたころ,日本のビジネスパーソン,学会人のほぼ全員が否定的だった。否定の理由は,きびしすぎる,金銭一辺倒,アメとムチの管理,密告制度,非人間的な管理,拝金思想を利用した管理,長期には機能しない,日本企業・日本人には適さない,などだった。
わたくしは南山大学,関西学院大学,兵庫県立大学のビジネススクールで授業をしている(いた)が,学生の評価の変化の推移に興味をひかれる。上記の書物が出版されたころは,全員が否定的に評価した。そのうちに,年とともに肯定的評価がふえた。女性のあいだで,人気が高い。この時系列変化の意味は何だろうか。
ハイアールの市場主義管理は8つの特徴をもつ。個人評価,結果評価,短期評価,公開評価,非裁量的評価,金銭的報酬,プラス評価だけでなくマイナス評価もある,非属性的報酬,の8つである。
ハイアールの市場主義管理は,この8つの特徴からもわかるように,日本的管理の正反対といってよい。
では,ハイアールの市場主義管理は中国的管理かというと,そうではない。それは非中国的管理なのである。同族(家族,親族),性別,年齢,学閥,出身地,党との関係,経歴などによって,昇給・昇進が決まるのが,中国的管理である。それは社会主義管理である。中国的管理がふつうだったとき,ハイアールの実質的な創業者で,市場主義管理の創始者の張瑞敏は,業績だけで年収や昇進を決める仕組みを導入した。全国からやる気のある若者が殺到し,成長の礎となった。(日本経済新聞,2013年2月4日)なお,中国人のあいだで,日本的管理は社会主義管理に似ていると思われている。
日本企業のなかにも市場主義管理の企業はある(あった)。ミスミ(創業者,田口弘が創案のチーム制組織),ドン・キホーテ,日本フィナンシャルセキュリティーズ,ディスコなどである。
ディスコでは,社内の仕組みは外部の市場と同じになっている。つまり,同社の管理は市場主義管理である。具体的には,つぎのようになっている。
[各業務の値段]業務の依頼・受注は社員と部署の取引で実施。価格はそこで決まる。[社員個人の業務別損益]間接部門を含め社内通貨ウィルで個人別に明確になる。[仕事の割り振り]上司は命令しない。毎朝,部署内で仕事をオークションにかけ,社員は落札して実行する。[社内の改善活動]各部署で社員がアイデアを考え,部署間で競い合う。対戦で勝つとウィルを獲得。[新事業・業務創造の決定]アイデアを持つ社員が提案。賛同する社員はウィルを事業案に投資。それが多いと上司の承認なしでも実行できる。[社内異動]社員個人が異動したい部署に申し込み,認められれば現部署の上司の承認なしに異動できる。[業務の担当部署]業務の独占は禁止。原部署以外でもより効率的な手法を創造できれば,他部署がその事業を実施できる。[勤務地]勤務地は自由。所属する部署以外の場所でも働くことはできる
なお,ディスコは「働きがいのある会社」と評価されている(日経ビジネス,2018年6月11日号,24-43ページ)。
ハイアールの市場主義管理は,女性に人気があるようだ。ビジネススクールのある年配の女性の学生は,このような非属性管理のもとで働いてみたかったといっていた。女性は,男性社員,とくに大卒男性正規社員のかげで能力発揮の機会を奪われている。市場主義管理は,女性活用の人事管理とはどういうものであるかを示唆している。
ハイアールの市場主義管理は,外向きで,さわやか,明るい,オープン,フェアーである。他方,日本的管理は,内向きで,じめじめして,きゅうくつで,ちぢこまっており,人間関係でストレスいっぱい。この弊害はとくに,若者と女性に強い。
仕事のできる人が速く昇給・昇進する人事管理,これがハイアールの市場主義管理である。日本的管理は悪平等である。「仕事のできる人がなぜ偉くなれないのですか。」これは,大手エレクトロニクス企業のシンガポール子会社の現地人の女性の発言である。
市場主義管理の日本企業は,クラシック企業(歴史のある大企業,とくに製造企業)にはないが,新興企業にはかなりあるのではないだろうか。
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