世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1225

ILC誘致,学術会議支持せずの答申,地元は政治判断に期待:答申遅れや歳末を迎えて政府意思表明は越年猶予3月初めに

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2018.12.24

 岩手県と宮城県にまたがる北上山地に,ISS(宇宙ステ―ション)や南極観測に匹敵する国際的先端科学プロジェクトILC(国際リニアコライダー)の誘致計画があり,今年内に日本政府の意思表示期限として日本学術会議の答申が待たれてきた。同会議は文科省の有識者会議がこの7月に科学的意義は認めながらも巨額の建設費や国際的な分担が不透明等の問題提起をしたのを受け8月から作業委員会で検討を行ってきた。その答申案が11月末に公表され外部見解の集約や査読作業で答申は越年ともといわれていた中で,12月19日の日本学術会議幹事会の了承を得て文科省に最終答申された。答申は,現行の計画内容や準備状況からはILC日本誘致を支持できないという厳しいものであった。

 一方,日本学術会議の答申の遅れと年末が押迫って政府の年内意思表明が微妙な情勢となり,超党派のILC建設推進議員連盟はILC計画を推進する国際研究者組織のLCC(リニアコライダー・コラボレーション)と都内の衆議院議員会館で12月7日に会合,日本政府の最終意思表示期限が越年猶予の3月に先延ばしされた。LCCのリン・エバンス代表は,「日本学術会議で議論が続いており,期待した年内の日本政府の声明が困難になった」と説明,世界の主要加速器研究所代表者らから構成される国際将来加速器委員会(ICFA)と下部機構リニアコライダー国際推進委員会(LCB)が都内で会議を開く3月7日を挙げ,これに間に合うよう日本政府が国際協議を始める意向表明することが極めて重要と強調した。

 本件はそもそも2014年から文科省有識者会議の検討委員会が計14回,4つの作業部会が夫々5〜6回と時間をかけ広範に検討されてきた。そして,この8月以来の学術会議作業委員会が11月末に答申案を公表,案には事実誤認や理解不足が随所に見られ,全体としてネガティブな見解が目立つしとして,「日本学術会議のすることか(達増岩手県知事)」といった反発が地元では一斉に報じられた。建設候補地の東北地方を中心に,ILC誘致を進めて来た関係者は期待が殺がれると早速是正の申し入れを検討委員会に行ってきた。

 反発の中には,学術会議は多分野の専門家が集まり意見集約が難しく,研究費配分利害にとらわれ専門分野外の公正な判断を欠く等の問題指摘がある。また,「国家百年の計」の審議に向いているのかとの問題提起があり,2012年に東日本大震災をテーマとする仙台市で開催された国連の防災会議では,専門性が求められる一方でそれを総合化して有効な政策に結びつける難しさの議論を思い出した。ILCのような日常生活には馴染みが薄く高度の先端技術や国際プロジェクトが地方で検討されるケースでは,国の政治課題にはなりにくいし中央が本拠のマスコミの関心が及ばない。年内に千載一遇の国際プロジェクトの帰趨が決まる段取りの中で,地元紙の河北新報や岩手日報に比べて首都圏の全国版マスコミはほとんどカバーせず多くの国民の認知には至らなかったようだ。

早期の日本政府の前向きな政治判断に期待する

 そうした不満の中で,「ILCを是非日本に誘致すべきで,日本学術会議の答申を参考にするが最終的には政治判断をする」との政治家の呼び掛けが注目された。岩手県盛岡市で12月10日開催の政権に参加する公明党政経懇談会の機会に斉藤幹事長が答えたもので,要人のここまで明言した見解は初めてで遅きに失したきらいがある。安倍政権の位置付は不透明であるが,科学的意義は認めつつも大きな予算手当の困難さからネガティブな意見が多いと見られる経緯からは,今後の行方に期待が高まる。ここでは触れないが(注),予算は巨額に上らないし国際分担の方向であり,欧米の期待を背景に再三日本への建設を訴えてきたリン・エバンスLCC代表は,「世界の科学コミュニティは日本政府の意思が見えないことにいら立っている」とし「3月7日までに表明を」と最後のメッセージを送った。

 ILC誘致は今後の政治判断に委ねられた。岩手県と宮城県知事は21日にも上京し与党や内閣府,文科省に前向きな政治判断を求め,推進関係機関や研究者は教宣活動や準備を一層強化するとしている。幸い日本政府の意思表明期限は越年猶予されたので,年明けから活動が本格化し早期の国際協議開始に向けた日本政府の最終的意思表示が待たれる。

 仙台市に居住していた経験からこのプロジェクトの可能性には大きな関心を抱き,東日本大震災からの復興と東北の創生を託す地元の期待をつぶさに見聞してきた。北上山地の建設候補地が世界から適地とされ実現が待たれている経緯から地元では産官学のみならず住民や子供達も期待をしており,こんな地域一体のプロジェクトは現在の日本では寡聞にして知らない。要はこの千載一遇の機会を日本の行方を左右する政治や学術,マスコミ界が認識をして実現することに尽きると思う。先端科学の国際協調では,ISSは米国,ITER(国際熱核融合実験炉)は欧州,そしてILCは東アジアを中心に進めるコンセンサスがあるようで,後者では隣国の科学技術強国を目指す中国もILCプロジェクトに関心を示している。

 岩手県では,年賀状にILCのロゴと誘致の呼び掛けを印刷した年賀状を発売している。

 筆者もこれを求めて友人や知り合いに送ってきたが,来年の賀状も求め一人でも多くの人に知ってもらいたいと取り組んでいる。北上山地と候補地を争った脊振山地を抱える九州の友人は誘致に共鳴する返事をくれ,大震災の被災地訪問とILCを学ぶライオンズ・クラブのツアーを率いてくれたことがある。

[注]
  •  詳しくは,世界経済評論IMPACT No.1161の弊稿「大詰めILC誘致,未来志向の政策判断ができるか〜科学技術立国と東北創生に向けて誘致に英断を〜」2018年9月24日付を参照されたい。

関連記事

山崎恭平

科学技術

日本

最新のコラム