世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.975
世界経済評論IMPACT No.975

コメにみるミャンマー農業の今後

川島 哲

(金沢星稜大学 教授)

2017.12.25

 ミャンマーの2011年「開国」後の大きな成果は,外国企業の対ミャンマー投資の基盤となるミャンマー投資法(以下:新投資法)を16年10月に成立させたことである。それまでは,外国企業による投資には外国投資法が,ミャンマー企業による投資には内国投資法が適用されていた。

 これらの2つの法律を統合したものである。2017年2月から4月にかけ,複数の施行細則が公表された。優遇税制,投資奨励分野,規制分野なども明らかになった。前政権時代には国会での審議がまとまらず,素案の提出から数年の歳月が経過していた同法が,NLD政権発足後,半年余りで成立したことは評価に値する(水谷(2017))。

 では,新投資法(2016年10月)細則の投資促進業種と制限業種についてJETRO「世界のビジネスニュース 通商弘報」2017年5月30日から概観する。

 2016年10月のミャンマー投資法第43条で「ミャンマー投資委員会は,連邦政府の承認を得て投資奨励分野を告示する」とし,第75条(c)で「法人所得税の免税については,ミャンマー投資委員会が投資促進分野として特定した業種に対してのみ付与される」としていた。投資企業管理局(DICA)は,MIC通達No.13/2017(2017年4月1日付)でこれら投資奨励分野(20分野)を公表した。

 投資奨励分野の1位が農業,2位が森林プランテーション,3位が畜産業,4位製造業と続く(ジェトロ(2017.5.30))。

 農業分野が最も高い優先順位である。

 これはミャンマーが農業を最重点分野と位置付けている証左でもある。

 まず,戦後のミャンマーの農業政策はいかなる変遷を経てきたのかについて概観してみる(草野(2013))。

 ミャンマーの農業政策は,計画経済化直後の1964年から始まるコメやマメ類といった主要作物に対する①計画栽培制度,②強制供出制度,③民間企業による農産物の国内流通と国外貿易の禁止(国家独占)に特徴づけられる(室屋(2012))。

 農民は政府から肥料や農機といった投入財の補助を受け,決められた面積で決められた農産物を作り,決められた量を供出していた。

 軍政が発足する前年の1987年,供出制度が縮小されて民間業者の国内流通が解禁され,一部地域では作付けの自由化も進んだ。翌1988年には,コメなど一部作物を除く農産物の民間輸出が自由化された。

 国内のコメ価格は上昇し,1992年から二期作(乾季作)が推進されたこともあって,灌漑の広がりとともにコメの作付面積が拡大した(藤田(2005))。

 2003年には,コメ供出制度の廃止や民間輸出の解禁などコメ市場の自由化が進んだものの,実質的に継続される計画栽培と輸出停滞の中で供給がだぶつき,2001年に33円/kgだったコメの生産者価格(実質)は,2011年には19円/kgにまで下落している。

 今後待ち受ける課題はいかなるものがあげられるか。

 コメを海外へ輸出する際のネックとなっているのは,ミャンマーのコメは長粒種である上に多様な品種が混在しているため砕米率が高いことがあげられる。これがコメ輸出停滞の一因となっている。

 ミャンマー政府はこの点に関していかなる措置を行っているのか。

 国際稲研究所や世界銀行,日本の政府開発援助(ODA)実施機関であるJICAなどと協力しながら,優良種子の開発と普及を試みている。また最近は,2013年に45年ぶりにミャンマー米を日本に輸出した三井物産とMyanmar Agribusiness Public Corporation(MAPCO)による,精米・コメ関連商品製造工場の建設や,営農,種子管理,肥料導入などの生産ノウハウの移転と,東南アジアやアフリカへのコメ輸出の拡大といった動向が近年見受けられる。

 筆者が,2017年5月にヤンゴンで行った日系大手総合商社からのインタビューでも指摘されたことであるが,輸出できるコメつくりをいかにして行い拡大していくかが今後の課題である。

 特にコメは国内消費をする分には問題ないが,それを商品化して輸出するには,品質面で大きな問題がある。この品質向上を行い,海外へ輸出に耐える高品質なコメを生産していくことが課題となる。

 そのためにはひとつの方策として契約農家などをもうけて付加価値の高いコメづくりから始めるべきだろう。

 この面での協力を日本はさらに積極的に行っていくべきときが来ているのではないか。

[参考文献]
  • 水谷俊博(2017)「ミャンマー スーチー改革の成果と展望」『ジェトロセンサー』(2017年8月号)日本貿易振興機構,56〜57ページ。
  • 草野栄一(2013)「ミャンマーの農業事情」『農業』(2013年11月号,No.1578)公益社団法人大日本農会,62〜66ページ。
  • 室屋有宏(2012)「ミャンマーの稲作農業——「コメ輸出大国」の可能性と課題」『農林金融』(2012年8月号)農林中金総合研究所,38〜55ページ。
  • 藤田幸一(2005)『ミャンマー移行経済の変容:市場と統制のはざまで』アジア経済研究所,2005年。
  • ジェトロ(2017.5.30)JETRO「世界のビジネスニュース 通商弘報」(2017年5月30日)
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article975.html)

関連記事

川島 哲

最新のコラム