世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
COP23と日本の温暖化対策:取組みの強化に向けて
(東京国際大学 教授)
2017.12.18
COP23の結果について
2017年11月にドイツのボンで開かれた国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)では,2020年に開始されるパリ協定の運用ルール作りの指針について具体的な合意に至らず,2018年のCOP24での合意に導くための交渉が行われるにとどまった。COP23におけるパリ協定実施指針の交渉では,緩和(2020年以降の削減計画),透明性枠組み(各国排出量などの報告・評価の仕組み),市場メカニズム(二国間クレジットメカニズム(JCM)等の取り扱い)などの指針の要素に関して,各国の意見を集約した文書が作成され,交渉の土台となる技術的作業が進展した。
2020年までの準備期間に進めるべき事項については,2018年1月から開始されるタラノア対話の基本設計が提示された。タラノア対話は,「世界全体の排出削減の状況を把握し意欲を向上させるための開かれた話し合い」であり,COP23の議長国,フィジーと来年のCOP24議長国,ポーランドにその実施権限が委ねられている。今回はフィジーから,目的促進の対話としての基本設計が提示された。
一方で,パリ協定で新たに排出削減義務を負うことになる途上国の側からは,先進国と途上国の責任の差異を強く主張する場面があったとされる。京都議定書の枠組みで先進国が約束した2020年までの排出削減や,途上国への資金支援の実績について評価する場を設けるべく,2018年及び2019年のCOPにおいて,すべての国の2020年までの取組みに関する対話が開催されることとなった。2020年以降の先進国の対途上国資金支援についての仕組み作りも2018年に持ち越された。米国が,米国にとって望ましい条件が整わない限りパリ協定には関与しないとして離脱を表明している中で,他の先進国が結束して取組んでいくことが求められている。
日本の温暖化対策に関する現状と問題点
パリ協定開始に当たり先進国の役割が強調される中で,近年の日本においては他の先進国と比較した環境対策進展の遅さが指摘される。日本政府はパリ協定での温暖化対策の長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことを閣議決定しているものの,具体的対策に裏打ちされた目標とはなっていない。
「発電1キロワット時あたりの二酸化炭素排出量」を見てみると,日本では1990年には452グラムと,主要先進国ではフランスに次いで低かったが,2014年までに556グラムに増加したため,この間に低下した英国,ドイツ,米国において日本より低い値を達成することとなった。また,「GDP当たりの二酸化炭素排出量(1ドルのGDPを生み出すときに排出した二酸化炭素量)」の2000年以降の減少についても,世界全体の23%減,米国の32%減,中国の26%減に対して,日本では10%しか減少していない(国際エネルギー機関(IEA)資料,日本経済新聞2017年10月4日付)。
この背景には,ヨーロッパやアメリカで再生可能エネルギーへの転換が進んでいることが挙げられる。「総発電量に占める再生可能エネルギー発電の割合」は,ヨーロッパのOECD加盟国で1990年の17.6%から2016年の33.3%に,アメリカ大陸のOECD加盟国で1990年の18.5%から2016年の21.4%に増加したのに対し,アジア・オセアニアのOECD加盟国では1990年の12.3%から2016年に12.7%と僅かに増加したのみである。特に日本の場合は2014年において12.2%,このうち水力が8.9%を占め,欧米に比べて水力以外の再生可能エネルギー割合が低い(IEA調査資料)。
日本における再生エネルギー使用発電設備能力は,2016年末時点で固定価格買い取り制度導入前と比較すると,2.7倍に増加している。本制度は様々な問題を抱えているとはいえ,買い取り価格低下を再生可能エネルギー全体で進め,電気料金に上乗せしている消費者負担の軽減を図りつつ,太陽光に偏らない形で再生可能エネルギー政策を進展させていく工夫が,前述の長期目標に向けた戦略において必要不可欠である。
二国間クレジット制度(JCM)による排出削減と今後の課題
一方で日本は環境分野で高い技術を有しており,特に排出量の高精度測定や分析・予測技術などが優れている。「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2017」では,こうした日本の優れた技術・ノウハウを活用しつつ,途上国の課題・ニーズを踏まえながらの共同イノベーションを推進していくとともに,二国間クレジット制度(JCM) による途上国の低炭素技術,環境インフラの普及が重要視されている。
二国間クレジット制度(JCM)とは,途上国への低炭素技術の提供などで温暖化ガス削減に寄与した場合,減らした分を支援国側の削減目標の実績に組み込める制度で,2013年に日本政府が立ち上げた。パリ協定では第6条2-3項「協力的アプローチ」において,JCM等,各国独自の市場メカニズム制度を容認している。COP23でも,JCM を含む市場メカニズムなどの指針について各国の意見をとりまとめた文書が作成され,交渉の土台となる技術的な作業が進展した。筆者はこの制度について2016年10月10日付け本コラムで紹介したが,その後JCMの成果は順調に伸びており,2016年5月時点で58件の排出削減・吸収プロジェクトから年間約30万トンの温暖化ガス削減が達成されていたが,2017年10月時点では,プロジェクト数は110件となり,こられの事業からの削減量の見込みは年間約65万トンと,昨年から倍以上に増加した。環境対策における日本の高い技術力を生かして温暖化ガス排出量削減に繋げるための方策として,この制度をうまく活用することが有効であると考えられる。
最後に,JCMに関して日本が直面する課題について考えてみたい。まずJCMのような炭素市場メカニズムの活用に関する技術的問題の回避に向けた日本の貢献である。温室効果ガスの排出削減・吸収量の二重計上回避については,パリ協定第6条に関するさまざまな問題を扱うSubsidiary Body for Scientific and Technological Advice(SBSTA)において,ルール・ガイドラインが議論されており,こうした場での有効な手法の指針作りに向けて,日本がこれまでの経験を生かして貢献していくことが期待される。もうひとつの重要課題として,技術提供国側の日本は,温暖化ガス排出削減の長期計画達成手段としてのJCMの位置づけを明確にしておく必要がある。本制度を活用した温暖化対策は,日本の技術力を生かした途上国支援に基づいているとはいえ他国での排出に依存しており,本制度活用と同時に日本国内での地道な温暖化ガス排出削減努力を強化することが重要であり,先進国として長期的に真の意味での環境保護国となることが求められる。
- 筆 者 :松村敦子
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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