世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.966

開発協力大綱から日本の経済政策を考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2017.12.11

 日本の開発協力戦略は,2015年2月に閣議決定された開発協力大綱に示されている。その協力大綱の重点課題には,「質の高い成長」「平和で安全な社会の実現」とある。それに基づく政府開発援助(ODA)政策の事業評価には,2016年版開発協力白書によると,PDCAサイクル(計画Plan 実施Do 評価Check フォローアップ活動Act)が用いられている。

 このように,開発協力政策には戦略の明確なビジョンと厳しい評価があるが,日本の国内政策にはこのようなものがない。特に,PDCAのうち,CとAがない。つまり,評価がないので,そのフォローアップもない。そのため,計画して,実施したことばかりが強調されている。日本の経済政策は選挙対策の様相を呈している。その結果,選挙の度ごとにあらたな会議が成立して,経済政策が打ち出されて実施される。

 2015年10月に安倍政権は「一億総活躍社会」を提唱し,「一億総活躍国民会議」を設立した。そして,2016年7月の参議院選挙に大勝した。また,2017年10月の衆議院選挙の前には「生産性革命」と「人づくり革命」を提唱して,「人生100年時代構想会議」を設立した。

 ここで重要な点は,「一億総活躍社会」や「一億総活躍国民会議」の評価がなされていないうちに,新たに「生産性革命」や「人づくり革命」が打ち出された。PDCAサイクルのうち,CとAがないため,両者の間にどのような関係があるのか,政策の優先順位がどうなるのか,分からない。単に重要そうに見える政策が並んでいるだけである。その時々の政治情勢に応じて,重点を変えているように見えてしまう。

 なぜこのように,国内政策は混迷しているのか,それは開発協力戦略とは異なり,日本経済への将来像や理念がないからである。先述のように,開発協力戦略には「質の高い成長」や「平和で安全な社会」というビジョンがあるが,国内経済政策には「名目GDP600兆円」や「待機児童ゼロ」というスローガンはあるのみであり,それによって日本や日本経済がどうなるかというビジョンがはっきりしないからである。

 日本経済のビジョンについて,開発協力大綱並みのものが必要であろう。仮に,協力大綱にある「質の高い成長」や「平和で安全な社会」を日本経済の理念とする。果たして,「名目GDP600兆円」や「待機児童ゼロ」がそれらにつながるかは不透明である。例えば,経済成長して,名目GDPが600兆円になったとしても,その成長の恩恵を享受できない人がいれば,質の高い成長を達成されたとは言えないであろう。成長の恩恵を享受できない人がいる結果,経済的な格差が拡大したら,それは平和で安全な社会とは言えないであろう。待機児童ゼロにしても,同様にして,それがどのような形で達成されるかによる。

 現在の政権のアベノミクスによる日本経済を復活させるというあいまいなビジョンではなく,開発協力大綱を参考にして,国民皆が共有できる分かりやすい日本経済の将来へのビジョンを打ち立てる必要がある。

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