世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の脱炭素について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2024.11.04
年々,気温が上がっている。夏の気温が著しく高い。今年も秋という感じがなかなかしない日が続いている。温暖化が身近に感じられるにつれて,気候変動やその原因である二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出削減や地球環境問題などは,近年かなり世間でも注目されるようになった。日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)が叫ばれており,温暖化の原因であるCO2の排出を削減することに関心が集まっている。
以下では,GXの要である電力をみてみる。日本の電源別発電電力量の構成比は2011年の東日本大震災の前と後で劇的に変化している。震災前の2010年,再生可能エネルギーは9.5%,火力発電は65.4%,原子力は25.1%であった。震災後の2012年,再生可能エネルギーは10.0%,火力発電は88.6%,原子力は1.5%である。このようなCO2を排出する火力発電の比率が高いことは,今でも変化がない。2022年において,再生可能エネルギーは21.7%,火力発電は72.8%,原子力は5.5%である。
震災直後に比べて,再生可能エネルギーの割合は2割に増加したが,原子力は微増に留まり,7割強を占める火力に依存している状況に変化がない。地球温暖化が進行して,気候変動が年々厳しくなり,世界中で干ばつ,洪水,海面上昇などの災害が多発している。これらの被害を世界中が平等に被っているわけではなく,圧倒的に多く被っているのは貧しい国である。貧しい国,つまり,途上国はCO2排出量が少ないにもかかわらず,それらによる被害を多く受けている。この現状から,先進国である日本も火力発電の比率を削減して,再生可能エネルギーのみならず,原子力の比率も上げる必要がある。
日本では地震,津波など自然災害が多いことから,原子力発電は要らないという人が確かにいる。しかし,世界を見渡せば,地球温暖化問題は途上国への過剰な負担を負わせており,これを即座に軽減するためにも安全が確認された原発は稼働させるべきである。さらに,原発だけでなく,再生可能エネルギーのさらなる活用も推進すべきである。その際に,気をつけるべきことは,再生可能エネルギー発電自体を増やすだけではなく,それを安定的に供給するためには,蓄電池の設置と送電網の拡充の両方を推進する必要がある。再生可能エネルギーは自然に左右されるため,電力供給が不安定である。それを安定させるには,蓄電池や送電網の拡充は不可欠である。つまり,短期的には,再生可能エネルギーと原発は代替関係ではなく,補完関係ということである。そして,中長期的には再生可能エネルギーが安定的な電源になれば,その分だけ原子力は段階的に減らしていく。このように戦略的に電源構成を見直すことは,日本の脱炭素への国際貢献にもなる。
最後に,電力の脱炭素がなかなか進まないなかで,政府は電気自動車(EV)の普及を促進している。しかし,現在の電源構成でEVを促進しても,CO2排出が増えるだけである。火力発電が主要電源だからである。
- 筆 者 :飯野光浩
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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