世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
東京電力福島第一原発の問題と国鉄問題について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2024.04.29
2011年3月に発生した東日本大震災から13年が過ぎた。この間,被災地では,復興が進んでいるが,その復興の歩みに大きな影を落としているのが,東京電力(以下,東電)の福島第一原発の問題である。最悪とも言われる原発事故を起こした東電については,事故の責任や賠償などをめぐり,法的・社会的・道義的側面から議論される場合は多い。以下では,この問題,特に,事故処理費用に関して,経済的な側面から光を当てて,国鉄問題と比較検討してみたい。それは,この原発問題と国鉄問題は非常に多くの類似点を持っているからである。
東電は,当然のこととして,福島第一原発の処理費用を負担する。処理費用とは具体的には賠償,除染 廃炉費用の合計である。2024年3月4日付け東京新聞によると,政府が示す福島第一原発処理費用が総額23.4兆円であり,内訳は賠償9.2兆円,除染4.0兆円,中間貯蔵にかかる費用2.2兆円,廃炉8.0兆円である。このうち,東電は賠償の約半分と除染,廃炉の費用を負担することになっており,その金額は合計で約16兆円である。この負担を返済するため,設定された東電の経営目標は4500億円の経常利益と1500円の株価であるが,同記事によると,この2つの目標は事故前にも達成したことがないという。
これをデータで確認する。東電のHPによると,経常利益に関して,1994年以降で最高値は2006年4412億円の黒字であり,最低値は2011年のマイナス4004億円の赤字であり,最新は2022年でマイナス2853億円の赤字である。日本経済新聞のHPによると,株価について,過去10年間の最高値が2024年4月15日の1114円である。
ここから見て取れることは,非現実的な甘い想定の下では,目標を達成できずに問題を先送りしようとする構図である。これは民営化前の国鉄と類似した状況である。国鉄も何度も再建計画を策定したが,見通しが甘く,目標未達成を繰り返した挙げ句,最後に追い込まれて,分割民営化されたのは周知の事実である。
実は,国鉄の経営難は早い時期から認識されていた。昭和35年(1960年)6月に当時の国鉄総裁が日本国有鉄道諮問委員会に「いかにして国鉄経営を改善すべきか」と諮問し,同年9月に「国鉄の経営改善方法に関する意見書」が答申された。その後,第1次再建計画(1969年~1972年),第2次再建計画(1973年~1975年),第3次再建計画(1976年~1979年),第4次再建計画(1980年~1985年)と何度も再建計画を改定したが,どの計画も非現実的な甘い想定で目標達成を先送りした。その結果,赤字が膨れあがり,最終的には追い込まれて,1987年に分割民営化された。問題の認識から解決策としての分割民営化まで実に27年の時間を必要とした。
この国鉄の分割民営化までの道のりをそのまま,現在の東電が歩んでいるようにみえる。根本的な原因にメスを入れずに,甘い想定のまま,ずるずると問題を引きずっていては,状況が悪化するだけである。つまり,東電の収支は改善せずに,赤字や負担が増えていくのみである。
この状況の打開策も国鉄問題から示唆される。国鉄の膨大な赤字の原因の一つは長期債務であった。この債務の大部分を国鉄清算事業団が引き継いだ。また,国鉄時代には,政府や政治家から運賃値上げなどの経営に関する介入があり,国鉄には自立的な運営は事実上不可能であった。民営化によって,これらのくびきから解放されて,JRはV字回復したのも周知のことである。
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