世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.950

進む習李体制下の東北開発と「一帯一路」

茂木 創

(拓殖大学政経学部 准教授)

2017.11.13

 2017年9月上旬,学生を連れ北京から哈爾濱,長春,大連,旅順と鉄道旅をした。南満州鉄道(満鉄)とヤマトホテルの遺構を視察する1,200kmの旅である。満鉄初代総裁の後藤新平が奉職する拓殖大学の学長でもあったこともあり,学生と回ってみたいと考えていたのである。私自身,何度か足を運んだルートではあったが,東北三省(黒竜江省・吉林省・遼寧省)を定点観測することで,現在進められている開発が広大な中国の経済発展にどのような意味を持つのか,実感させられる旅となった。

 中国東北三省は,戦後の計画経済の下,次々と建設された国営企業を中心にいち早く重工業化を遂げた地域である。しかし,1978年の「改革開放」政策以降,開発の本流が華南沿海部に移ると,東北三省の経済的地位は次第に凋落し,停滞していった。

 こうした東北地方の経済停滞の理由の一つに,合理性のない計画目標の下で経営を行っている国営企業の「X非効率」が挙げられる。X非効率とは,企業において費用最小化が長期的に達成されていない場合に発生する非効率性の総称である。簡単に言えば,理由もなく発生し,見過ごされてしまう経営上の「無駄」である。資本主義国家でも,競争圧力と無縁な独占企業などではX非効率が高いことが指摘されている。計画経済によって国家的に産業を主導するよう設立された国営企業には,その当初からX非効率を生みやすい条件が整っていたのである。

 逆説的に聞こえるかもしれないが,国営企業のX非効率をさらに拡大させたのは,1992年の社会主義市場経済の導入である。経済特区を中心に改革開放が進む華南沿海部に対して,東北地方の国営企業にはさらに高い生産目標が設定されたために,それを実現すべく採算を度外視した過剰な投資がなされるようになったのである。

 2002年に胡錦涛・温家宝体制(胡温体制)の下で東北振興政策が打ち出されると,開発はより急速にすすめられた。しかし,振興策は国営企業への経営管理を一層杜撰なものにし,鉄鋼などでは不当な廉売を生むこととなった。

 こうした中,2007年には「東北地区振興規画」が批准された。これはインフラ整備,産業基盤の整備,工業地域の造成などを含む巨額の国家プロジェクトである。紙幅の都合上,鉄道インフラについてのみ述べるが,2012年,足掛け6年に及ぶ「哈大高速鉄道」(哈大高鉄)が完成し,これまで9時間半かかっていた哈爾濱駅から大連駅間(約920km)は,3時間から5時間半(注:夏は300㎞/時,冬は200㎞/時で走行)に短縮され,人やモノの移動が一層活発になった。東北三省が日帰り圏内となったことはここ数年の大きな変化である。沿線主要駅や都市交通(メトロ)の建設も急速に進んでいる。大連駅では2011年に高速鉄道用のプラットホーム建設に伴う改修が終了し,瀋陽駅は2014年に改修が完了している。

 東北振興政策は続く習近平・李克強体制(習李体制)の下でも継続的に行われてきた。2016年11月,政府は1兆6千億元(約25兆6千億円)に上る新たな東北振興策を行っている。今回視察した鉄道インフラ整備についていえば,2017年現在,黒竜江省では哈爾濱駅や地下鉄2号線・3号線の改修・建設が,吉林省の長春駅では駅の改修作業が急速に進められていた。

 鉄道インフラのみならず,現在東北三省では,道路,空港の整備も急速に進められている。こうしたインフラの整備は,単なる東北地域の経済活性化の基盤をつくるにとどまらない。ロシア,モンゴル,北朝鮮と経済連携を深めんとする「一帯一路」構想に基づくものである。

 同時に,習李体制では国営企業改革にもようやく本腰を入れ始めている。2016年10月,度重なる社債不履行にもかかわらず命脈を保たれてきた国有鉄鋼大手,東北特殊鋼集団(遼寧省大連市)が50億元(約7,500億円)の負債を抱えて倒産したことは記憶に新しい。死に体ながらも国家によって命脈を保たれてきた「ゾンビ企業」をどう処理していくかは,二期目を迎えた習李体制にとって喫緊の課題である。

 今回の中国三省の視察では,インフラを整備する一方で国営企業改革を断行し,近隣諸国との経済連携をより一層強固なものにしていく習李体制のしたたかな経済戦略を垣間見ることができた。「一帯一路」は東北地方でも着々と進んでいる,その思いを強くしながら,学生と帰国の途に就いたのである。

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