世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプ・アメリカと資本主義経済の改革(その2)
(ベイサイト・ジャパン 代表取締役)
2017.02.20
トランプによりアメリカは再生できるのだろうか
トランプは大統領就任の第一声で「アメリカで最も雇用を増やした大統領になる」と言い,アメリカを再び強い国にすると宣言した。逆に言えば,このままでは資本主義経済はおかしくなるという恐怖である。これはトランプだけではなく,アメリカの国民大衆が感じているものである。
しかし,これまでのトランプの言動からすると,問題は,彼は雇用を増大するのは大企業だと思っていることだ。トランプは,現在の大企業,ラストベルトをそのままで雇用を拡大せよと言っている。キャリヤー,フォード,GMなどの大企業をそのままの形で雇用を拡大せよと迫っているが,彼らはそれに従うが,別の税金そのたの補助を要求している。これはとるべき道ではない。これまでの産業構造のままで,力ずくでアメリカの国内に雇用を増やすのは間違いだ。産業の国際環境は片時も同じ状態ではなく,常に変化し,常にイノベーションを求められている。アメリカは1980年からそのイノベーションを怠ってきた。旧来の自動車産業,化学産業を含めたラストベルト産業をそのままで,雇用を力ずくで拡大させようとしても,共倒れになる。
シスコのチェインバースも「今日の大企業の40〜50%はこれから数十年たつと消えてなくなる。グローバル企業は雇用を増やしてはいない。雇用の増大はスタートアップ(ベンチャー企業)が職場の70〜80%を創造するものだ」と言っている。これは正しい見方である。イノベーションによる新しい市場の創造である。この精神は,1914年第28代大統領ウイルソンが「アメリカの富は既存の支配階級から生まれるものではなく,未知の人たちの想像力と発明と野心によって創られるものである」と述べた言葉として,アメリカに連綿として生きているのである。これがトランプの言う職場を多く創ることになる。これをどのようにプロモートしていくかである。そしてアメリカでのイノベーションは多くの移民によって進められたことも事実である。トランプはこの「スタートアップ」のイノベーション力をまだ十分理解していないのではないか。この点が,トランプが本当のうつけものであるか否かを決めるものになる。
資本主義経済の活動にはいくつかの鉄則がある。これをトランプは理解しなければならない。
(1)国を閉ざす保護主義では,その国の経済は発展しないことは,これまでの歴史が明確に教えている。
(2)金融政策・財政政策では経済の再生はできないことは,今度の日本の日銀・政府の大実験で,改めて実証されたことである。
(3)政治の論理で産業を動かすと産業と経済は衰退する。政治的思惑で,アメリカの大企業に工場をもっとつくれといっても,産業ロジックにあったイノベーションにより産業競争力を高めることなしには,それは必ず失敗に終わる。
実は,こうしたトランプの問題は,日本にとってもより重要なことであることを認識しなければならない。
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