世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.680
世界経済評論IMPACT No.680

私たちの知らない,中国のもう一つの顔(その1):中国No.1企業のモンゴル資源買い付け現場で起きたこと

田崎正巳

((株)STRパートナーズ 代表)

2016.08.01

 最近,南シナ海問題をはじめとして中国の周辺国との摩擦が大きくなっているようです。欧米や日本から見ると,国際社会の中では中国の「悪役ぶり」が一段と目立つようになってきました。ですが,そんな中でも中国を支持する国々がそこそこ多いのも事実です。

 当然,そこにはそうした国々への資金援助や「賄賂」とも言えるような政府高官への働き掛けがあることは十分推測されます。しかしながら,そうした側面だけしか考えられない状態に私たちが陥っているのも事実です。マスコミは何も報じてくれませんから。

 中国通の方,中国で長い間ビジネスをされてきた方は日本にもたくさんいらっしゃると思います。そうした方々は当然ですが「日本企業」や「日本人」という看板を背負っているので,中国人ビジネスマンらからすると,それは「先進国向けの対応」である場合が多いのです。

 フェアーかどうかは別にして,「周辺国への気遣いをする中国」という別の顔があることが私たちには見えてないということをここでお伝えしようと思います。

 私がモンゴル企業のアドバイザーをしていた時の出来事です。いつものように,その会社のプロジェクトにつていの報告を受けていました。すると「……なので,この後その中国の会社の人がここへ来るので,一緒にお願いします」と言われました。

 「え? 何? 中国の会社? なぜ私が一緒に?」なんだかよくわからない展開です。

 要するに,私のクライアント企業が現在資本参加を検討中のモンゴルの鉱山会社があって,その会社に某中国企業から輸入の引き合いがあったという話でした。クライアント企業はまだその鉱山会社の買収前でしたが,「将来の親会社」として中国の会社が商談を進めたいということらしいのです。間もなくその中国の会社がやってくるというので,簡単な説明を受けました。

 「もちろん,田崎さんが鉱山の専門家でもないし,中国語がわからないこともわかっていますが,相手は中国の大企業で私たちは中国人と本格的な商談交渉をしたことがないのです。ですから,私たちには日本人の経営コンサルタントがついているので,変なことはするなという牽制みたいなものです」。

 要するに私は吠えない番犬か,と思いました。

 私は急遽,その鉱山の計画や中国企業との交渉内容についてブリーフィングを受け,いくつかの点をアドバイスしました。こちら側にはモンゴル人のクライアントの会社の社長,このプロジェクトのマネジャーEさんと私。先方は中国人2人。名刺交換するも,先方から見たら「大学の先生の名刺」(当時私はモンゴル国立大学経済学部の教授をしていたのです)を出すモンゴルにいる日本人なんて,ほとんど意味不明だったことしょう。しかも,最悪なのは言葉の問題。こちら側の会社はモンゴル語で話し,それを先方の1人が中国語に訳します。

 先方の代表の方は当然中国語で話し,それがまたこちら側のスタッフによってモンゴル語に訳されるわけです。そこには日本語は当然ですが,英語も入り込む余地はありません。ちなみに,私はモンゴル語も中国語もわかりません。そんな状況なのですが,私は初めて「外国人同士の商談」の現場にいたのです。コンサルティングや経営に関する話は,外国人と話した経験はもちろんあります。が,外国企業対外国企業の商談現場は未経験です。恐らくほとんどの日本人は未経験なのではないでしょうか?

 言葉はわからないのですが,時々隣にいるマネジャーのEさんが手短に私に通訳してくれます。最初の長いやり取りは「今話しているのはそれぞれの会社の自己紹介です」などと,解説してくれます。そこで私はトップの責任者同士が会うのは,今日が初めてだ,と知りました。先方とはマネジャーのEさんが前回の中国出張で上海で一度会っただけだそうです。私はモンゴル語と中国語のやり取りの間,手持無沙汰で先方から頂いたアニュアルレポートや会社案内を見ていました。すべて中国語と英語で書かれているので,私でも理解できます。フムフムと読み進んでいると「え? この会社(今相手にしている中国の会社)そんなにでかいの!」と驚きました。

 なんとフォーチュン500にランクされた企業でした。当初から大企業であることは知っていましたが,そこまで大きいとは。ちなみに,2015年現在のその会社のグローバルランキングは,第1位のウォルマートに次ぐ第2位の巨大企業ですから,トヨタを含めたすべての日本企業よりも大きな会社なのです。もちろん,中国ナンバーワン企業です。

 このナンバーワン企業はモンゴルの資源を買いに来たというわけです。

 先方は「300tでも500tでも買います。1000tでも買います。量は多いほどいいです」と言います。ちなみにクライアントの投資先予定の会社は,ある資源を年間150〜300t程度,精製して供給できる能力があります。先方のニーズに応えるには当然追加投資が必要になります。追加投資となると,当方も長期で考えないといけません。
 「契約は長期を希望します」と中国企業。
 「3−5年を希望します」とモンゴル側。
 「もちろんそれで結構です。もっと長くても構いません」とあっさり返って来ました。モンゴルは内陸国なので,中国企業と契約すると「どうせ他国へは輸出できないだろう」と価格で足元を見られることがあるので,私はこの価格決定方法も予め決めておこうとアドバイスしました。

 「量の約束は大丈夫ですが,価格は固定せずにおっしゃる通り世界の市場価格(シカゴ相場)にしましょう」とこれまたフェアーな返事です。

 私は言葉のやり取りがわからない分,じっと両者の顔や態度を観察していました。中国側には,全く尊大な態度はなく,真摯で無駄なことは一切話さず,好感が持てました。更に,モンゴルという国や人々への配慮も感じられ,随分大人(おとな)な中国に見えました。中国側の代表の人も,時々私を見ます。私は「おかしな話が出たら,すぐにでも突っ込もう」と身構えていたのですが,あまりにも友好的で,あまりにもこちら側の要望を受け入れるので,逆に不思議な気持ちになりました。要するに,我々が想像する「強面で威圧的な中国」という雰囲気が全然ないのです。——(その2)へ続く

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article680.html)

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