世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.678

イギリスEU離脱の意味(その1)

三輪晴治

((株)ベイサンド・ジャパン 代表)

2016.07.25

イギリスのEU離脱

 2016年6月24日の未明,イギリスは国民投票でEUを離脱することに賛成した。イギリスの離脱組は,その瞬間「インディペンデント・デイ」と叫んだが,実際は,多くの離脱組の人も,本気で離脱するつもりはなかったのではないか。そしてこれは,政治の駆け引きに国民投票を使ったキャメロン首相の誤算であったのかもしれない。

 だが,イギリスは,EU本部ブリュッセルのいろいろの規制に阻まれ,イギリスにとってやるべき手が打てない不満とドイツ一人勝ちのEUの政策に反抗して,離脱という新しい道に投票したのだ。特にイギリス経済は,EU経済の停滞の中での中間層の所得の停滞で,経済の閉そく感が鬱積していて,この離脱はそのことによる暴発であった。

 このイギリスのEU離脱には,二つの問題があった。

 一つは,EUは,初めからその集合体としての経済社会構造に欠陥を残したままスタートしたことである。ヨーロッパの長い戦争の歴史に対してそれに楔を打つという意味では成功し,そして単一通貨の確立でも実績をしめした。しかしその組織構造には,各国の国家主権が思うように施行できないという欠陥があった。移民の問題もあるが,EUの経済社会構造の欠陥のために,各国の金融・財政政策が機能せず,そのために,所得格差,地域間格差による国民大衆の生活の悪化が増幅されてしまったことが大きい。販売するキュウリやバナナの寸法まで規定するという細かすぎる「EU法」は,各国の国内法よりも優先し,各国の状況にあった政策がとれなかったことだ。

 その上こうした枠組みでドイツが経済的に一人勝ちをしたことが,イギリスの不満に火をつけたのだ。ドイツでは,シュレーダーが労働者の首切りをしやすくし,労賃を下げて,ドイツ商品の輸出ドライブをかける上で,経済的に弱体な国の集まりのEUを利用してた「安い統一通貨:ユーロ」で,それが可能になり,ドイツの独り勝ちになった。その結果EU内の格差が広がった。

 つまりEUは長期にわたる停滞と生活水準の大幅な乖離をもたらしたことである。イギリスにとって離脱が損か得かの問題ではない。

 これからの日本も含めたアジア共同体市場などの市場統合に対し,このイギリスのEU離脱問題は大きな教訓となり,そのための新しい仕組み・構造を創造しなければならないという大きな宿題をもらったことになる。

 二つ目は,もともとイギリスは,サッチャーの新自由主義で,ウインブルドン化,開放化,グローバル化の先端を走ってきた。しかし,今やそのイギリス自身がその「ハイパー・グローバル化」の壁にぶち当たったということである。つまり,1975年以降のハイパー・グローバル化により,世界的に経済格差が拡大され,租税の問題も明るみにでて,イギリス自身にそれが降りかかってきた。ハイパー・グローバル化がそれに拍車をかけ,各国の国家主権をいろいろと制約してきたことに対する逆襲である。産業界では,グローバル・サプライ・チェーンで,多くの企業は,「羊羹長屋」と称する下請けのチェーンに連なり,これがコスト競争で極めて不安定な状態に陥り,いろいろの国民経済を錯乱している。同時にグローバル・サプライ・チェーンをドライブする企業は,価格切り下げ競争,大量生産の「チキンレース」で戦わされ,しばしば経営破たんに追いやられ,自爆する。特にグローバル化のなかで安売り量販店が産業を衰退に追い込んでいることも見逃せない。こうしたものが,国民国家における大衆,中間層の貧困化を招いているというのだ。

 その上に,巨大金融資本のグローバル化が,世界経済を錯乱し,富の収奪,富の格差の激化をもたらしてきたことがEU経済を分裂させてしまったのだ。そして,こうしたグローバル化に翻弄されたブリュッセルのEU本部の高官層の目線が,EUの各国民国家そして一般市民と乖離してしまったのである。

 こうした動きは,イギリスだけの問題ではなく,今日の先進世界各国にとって共通した深刻な問題である。これが,アメリカのトランプ現象であり,ギリシャ問題であり,イタリアの不良債権の問題であり,中国経済の悩みである。日本にもそうした反逆が起こる条件はそろっているが,不思議なことに,日本はなかなか動かない。

 エリート支配層の不合理な振る舞いにたいする国民大衆の逆襲がこのイギリスにおいてEU離脱となったのだ。その意味では,イギリスはまだ民主主義が機能していると言える。日本も似たいような状態であるにもかかわらず,何も起こらないのは,民主主義の力が殺されているのかもしれない。だが,言うまでもなく,イギリスの問題は,EUから離脱するだけでは解決しない。経済構造を修復し,改革しなければならないのだ。

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三輪晴治

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