世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
グローバル中小・ベンチャー企業の統合モデル構築の可能性
(日本大学 教授)
2016.06.27
かつて海外戦略といえば,経営資源が豊富にある大企業の戦略とみなされてきた。事実,国際ビジネスの分野では,多国籍企業の戦略行動をベースに理論が構築されてきた。しかし,昨今,市場のグローバル化や情報技術の発展などを受けて,企業規模が小さくても,設立から数年以内に海外市場に参入する企業が増大してきている。ボーングローバルカンパニー(以下BGC),インターナショナル・ニューベンチャーなどと言われている企業の台頭である。これらBGCの主要な特徴というのは,母国市場の規模が小さいため,世界市場をターゲットとして,設立から数年以内に海外展開する。また,取り扱う製品はグローバルなハイテク関連の製品が多く,創業者は海外企業や海外事業に従事していたという経験を持っている。
これらの特徴から言えることは,国内の市場規模が小さいゆえに世界市場に目を向け,また,製品特性そのものがグローバル市場に向いている。しかも,創業者は国際的なスキルを設立以前から有している。ある意味,設立当初からグローバル市場に進出する条件が整っている企業と言っても過言ではない。
そのためBGCの理論では,本国にある程度の市場規模があり,事業や製品特性がその国の固有のもので,しかも創業者が海外経験を持ち合わせていない企業の早期のグローバル化を説明することは難しい。例えば,世界的に有名なレオン自動機(以下,レオン)は,日本の代表的な食文化である和菓子の食品機械メーカーとしてスタートし,設立から5年で研究所を海外に設置している。当然のごとく,和菓子自体はグローバル化した商品ではないし,レオンの創業者は海外経験を持ち合わせていない。
そもそもBGCの理論では,説明できない中小・ベンチヤー企業の海外進出の事例は他にもある。たとえば,創業から何十年も経過してから突然,グローバル化する中小・ベンチャー企業もある。つまり,買収や提携などのあるインシデントをきっかけに突然,グローバル化する中小・ベンチャー企業である。このような企業をボーン・アゲイン・グローバル・ファーム(Born-again Global Firms,以下,ボーンアゲイン企業)という。ところが,このようなグローバル化を促進するようなインシデントもなく,しかも,長い間,国内市場をターゲットにして事業を展開してきたにもかかわらず,突然,コア事業の転換をきっかけにグローバル化するボーンアゲイン企業も存在する。この後者のボーンアゲイン企業の戦略行動は,前者のボーンアゲイン企業のタイプと同様にいまだ十分に解明されているとは言えない。
たとえば,広島にあるヒロボーは,かつて紡績事業をコア事業としていたが,紡績事業の衰退を契機に,ラジコンヘリ事業に転換することで世界のトップ企業になった。また,筆の産地として有名な広島の熊野地方は,かつて書道筆を生産する中小企業の産業集積地であった。しかし,競争・市場環境の変化に適応できず,多くの企業が廃業に追いこまれていった。そんな中で,書道筆の技術を化粧筆の分野に応用することで,突然,世界的企業になったのが白鳳堂である。
もちろん地域企業の中には,ある程度の時間をかけて輸出から直接投資へと段階的に国際化のレベルを上げていく,伝統型の海外進出を展開する中小企業も存在する。このタイプの中小企業は,大企業などの下請けで海外に進出するケースも多いが,なかには地域資源を生かしながら,特定の分野で世界的な企業になるグローバルニッチトップ企業もある。
たとえば,漁業という衰退産業の中にあっても,世界的な企業が存在する。函館にある東和電機製作所(以下,東和)は,自動イカ釣機の分野では世界のトップ企業である。東和の持続的成長を可能にしているのは,その高い技術力である。その技術を支えているのが地域資源の活用である。函館は昔からイカの漁獲高が高く,そのイカを釣る漁師の技術は世界でもトップクラスであった。その漁師の技術を機械に応用することで,東和は世界のトップ企業へと上り詰めたのである。東和のように,地域資源を活用しながら,半世紀以上にわたって長期存続を図る企業もある。
昨今,BGCの戦略行動が注目されているが,今まで述べてきた事例のように,日本にも多様な海外進出パターンを持つ中小・ベンチャー企業が存在する。つまり,国内での長い事業展開の後にグローバル化する伝統型の中小・ベンチャー企業。買収,提携,コア事業転換などの特定のインシデントをきっかけに急激に海外展開するボーン・アゲイン・グローバル企業。そして,設立から数年以内に海外展開するBGCである。
これら3タイプの中小・ベンチャー企業の戦略行動を,多角的な視点から比較分析していくことが,グローバル中小・ベンチャー企業の戦略統合モデルを構築する上で必要不可欠であろう。
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髙井 透
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