世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.657

「政治の高齢化(Political Aging)」にどう立ち向かうか

小黒一正

(法政大学 教授)

2016.06.20

 日本の人口減少や少子高齢化のスピードは凄まじく,このような状況での民主主義は人類史上初めての経験ではないか。しかも,日本と同様,今後は多くの先進国においても,全有権者に占める引退世代の割合は上昇することが確実であり,各個人が利己的に行動し,かつ,その行動がライフサイクル仮説に従う場合,政治的意思決定の時間視野はさらに短くなる可能性が高い。

 もし有権者における引退世代の政治的影響力が勤労世代の政治的影響力を上回っていて,政治がその影響力に応じて意思決定を行うならば,政治は引退世代の効用を最大化するように行動する。これを「シルバー民主主義」仮説といい,近年の政府債務残高の膨張や,財政改革・世代間格差の是正が進まない理由の一つを,この仮説に求めるケースもある。

 「シルバー民主主義」仮説の妥当性については,十分慎重な検証が必要であることはいうまでもないが,日本では最近,「シルバー民主主義」を是正する観点から,従来の「一票の格差是正」や「選挙権の年齢引き下げ」といった主張のほか,「世代別選挙区制」(有権者の人口構成比に応じて世代ごとに議員の議席数を配分)や「ドメイン投票制」(子どもに選挙権を付与した上で親が代理で投票),「余命投票制」(世代別選挙区の拡張で各世代の平均余命に応じて世代ごとに議席数を配分)といった新しい選挙制度が提唱されている。

 ただ,こうした新しい選挙制度を巡る議論の幅や深みは,まだまだ少ないのが現状である。例えば,ドメイン投票法や選挙権年齢引き下げの延長として,世代別選挙区制の中に「子ども区」を設置することも考えられる。つまり,選挙区を,0−10代の「子ども区」,20−30代の「青年区」,40−50代の「中年区」,60代以上の「老年区」の4つに区分し,各世代を代表する議員を選ぶ方法である。

 また,女性の目線や立場で政策立案する機能の高めたい,あるいは,保育サービスや子ども手当・教育補助を含めて子育て支援を強化したいのであれば,「女性区」や「子育て区」を設置することも考えられよう。

 他方,若い世代の政治力を高めるためには,政治への人材供給システムに関する考察も必要である。また,政策の質,政策実行力を決定するのは,政党に所属するメンバーの政策力である。このため,政策重視の選挙を進めるには,幅広い人材供給を通じて,政策競争を促す仕組みの構築が不可欠であることはいうまでもない。

 例えば,会社員や公務員・大学教官等の身分を留保した形での議員兼職を認める「政界出向制度」や兼職のままでの議会活動を認める制度の導入などを検討してみてはどうか。ドイツやフランスでは,公務員の議員兼職が認められている。また,日本では地方議員に対して職務専念義務は課されておらず,公務員(地方自治法92条や公職選挙法89条・90条)を除き,兼職が一般に禁止されているわけではない。県議の約5割,市議の約6割,町村議の約8割が兼職をしている。例えば,福島県矢祭町など,地方によっては議会の役割や議員報酬の見直しを行い,議員の多くが兼職という自治体も存在している。もっとも,議員の兼職にあたってはその執務に要する時間短縮等の改革が必要となるだろうが,このような取り組みを参考に議会を土日や夜に開催することができれば,一般のサラリーマンも兼職できるようになる。

 さらに,被選挙年齢の引き下げも重要なテーマである。日本の被選挙年齢は衆議院議員25歳,参議院議員30歳,地方議員25歳となっている。しかし,史上最年少の18歳の国会議員を生み出したスウェーデンをはじめ,ドイツやオーストラリアなど被選挙権が18歳の国も多く存在する。若い時から政治リーダーとしての経験を積み,能力を高める機会を提供する仕組みの構築が不可欠である。

 その際,義務教育の過程で政治に参加する意義等をしっかりと教え込む教育側の努力も不可欠だが,こうして政治家の人材供給ルートの間口を広め,競争原理を促進しつつ,幅広い・多様な世代が政治システムに参加できる仕組みを構築することが重要である。

 なお,選挙制度改革とは別に,世代別の利害にとらわれないような意思決定を有権者に働きかける方法もある。それは,財政の長期推計や世代会計の公表などを担う「独立財政機関」の設置(例:オランダの経済政策分析局やイギリスの財政責任庁)である。

 いずれにせよ,少子高齢化の進展に伴い,「政治の高齢化(Political Aging)」が進む日本。シルバー民主主義を是正する仕掛けを巡る議論は,まだ十分に深まっておらず,既存の「一票の格差是正」や「選挙権の年齢引き下げ」のほか,新しい選挙制度や政治の人材供給のあり方を含め,様々な検討を行っていく必要がある。それは,いまの政治システムが生み出す「民主主義の失敗(例:世代間格差)」をどう是正するかを決定づける大きな要因の一つになるはずである。

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