世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.616

地球環境問題への対応:バランスをとった対応は可能か

武石礼司

(東京国際大学 教授)

2016.03.28

 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は,2015年12月に,パリ協定を採択して閉幕した。世界各国が自主的に温室効果ガスの削減目標を設定し,5年ごとに世界全体の状況を把握していくこととなった。また,先進国が引き続き途上国向けに資金を提供して,環境問題への対応を図ることになった。

 COP21では,2°C目標に加えて1.5°C目標も言及されたが,日本のように排出削減の費用が高い国においては,自主的に宣言した目標を達成するために国内でCO2排出量を削減しようとすれば,削減のために多大なコストを必要とする。電気料金が今までも割高であった日本では,さらに値上げを余儀なくされることも予想される事態となっている。

 ここで,日本における気候の移り変わりに関する田家康著『気候で読み解く日本の歴史 異常気象との攻防1400年』(2013年)に注目して,考えてみたい。同書は,過去2千年という期間では,「氷期と間氷期といった気温差が激しい変化ではないものの,数十年数百年といった単位で」,主として太陽活動,そして火山噴火が影響して,日本の気候を大きく変えてきた歴史が述べられている。

 もちろん高校の地学でも習うように,10万年サイクルで氷期(氷河期)が到来してきた歴史を地球は経験してきており,現在は間氷期にあり,1万7千年ほどの温暖な時代を享受していることは間違いない。そうした間氷期においても,IPCC第5次報告書でもとりあげて指摘しているように,太陽活動が明らかに弱まったマウンダー極小期(1645年から1715年)には,一時的な寒冷化が生じている。この時期,ロンドンのテムズ川でスケートができた記録もあり,さらにその後も,ダルトン極小期(1790年から1820年)が生じている。

 一方,時代を遡れば,オールト極小期(1040年頃から1080年頃),ウォルフ極小期(1280年頃から1350年頃),シュペーラー極小期(1420年頃から1530年頃)のように,地球上では何度も寒冷化した時期が,間氷期にあるにもかかわらず生じている。

 その他,火山噴火も気候に影響しており,「1991年のフィリピン・ルソン島のピナトゥボ火山の噴火は,翌年の全球平均気温を約0.5℃下げたと観測されている」(前掲書,以下同じ)。そのほか1258年の赤道付近での巨大噴火,天明の飢饉と関係する1783年のアイスランドのラキ火山の噴火,1815年のインドネシアのタンボラ火山の噴火など,「夏がなかった」という冷夏は火山の噴火によってもたらされることがあった。

 こうした影響を受けて日本の歴史も,気候変動により右往左往してきた歴史であると言っても過言でなく,干ばつ,飢饉,疫病の流行,大凶作,6月でも冬のように寒いという異常低温などが生じて,政権が交代せざるを得なくなる事態も,実はしばしば生じてきた。

 このように見てくると,現在のCO2の排出量の増大による大気中のCO2濃度が高まっており,したがって人為的要因で温室効果が生じているとしても,それでは何が何でもCO2排出量を削減して,高価な再生可能エネルギー100%としなければならないかと言う点に関して,もう一度立ち止まって考える必要が出てくる。ビョルン・ロンボルグが『500億ドルでできること』(2008)で指摘するように,「地球温暖化と伝染病,世界的に最も差し迫った問題はどちらか」(同書)というような問題設定の仕方が重要となる。「温暖化は,高緯度地域の国には大きな利益をもたらし,中緯度地域の国も2.5℃未満の平均気温上昇であれば利益を受ける。以前に指摘されていた程度の被害を短期的に受けるのは,熱帯と亜熱帯の国だけだ。全体的には,気温上昇が2.5℃未満であれば,地球温暖化の利益は被害を上回る確率が高く,利益を差し引いた損害額は当初考えられていたよりはるかに小さいだろう」(同書)と指摘されている。

 支払える限度がある資金の中から,各国(特に日本を含めた資金拠出国)が支出すべきなのは,直面する課題への対応を優先すべきてあり,エイズなどの感染症対策,栄養不良と飢餓対策(微量栄養素の供給),貿易障壁の除去と貿易自由化・補助金削減対策,マラリアなどの感染症対策,農業新技術の普及・啓発,衛生と水対策といった順に用いられるべきとの指摘が存在する(同書)。

 気候変動対策としての支出の優先度は実は低く,国内で炭素税をかけたり,他国に排出量取引として支払ったりすることよりも優先度が高いお金の使い道が世界には存在しているとの上記のような議論が出されている点を理解しつつ,地球環境問題に関してより活発な議論をしていく必要があると考える。

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